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樹は何もしなくていいと言ったけど、私は仕事を求めた。


何もしないでただでそこにいることが悪いと思った。



それと、役に立つことでしか自分の存在価値を見出せなかったから。




私は家政婦として住まわせてもらうことにした。



家事をするのは自分が望んだことで、文句は一つもなかったけど、料理をするのだけは苦手だった。


今までほとんどやったことがなかったからうまくできなかった。


それと、料理を作る時にどうしてもお母さんの味、顔、そしてお父さんの顔も思い出してしまうから。



途端に罪悪感に襲われる。



そんな私を救ってくれるのは樹だった。




「家事全部やってくれるから大助かりだよ。ほんと、ありがとね」



いつだって樹の言葉に助けられる。


樹は本当に優しい人だった。




「あ、あのさ、今度の休みどっか行こっか」


「え?」


「買い物付き合って」


「あ、うん」



スーパー以外はほとんど外に出ない私を、樹はたまに一緒に外に連れ出してくれた。



買い物に行った時は、私に洋服を買ってくれることもあった。


「外に出ないからいらない」という私に、「今度一緒に遊び行くときに着て行けばいいじゃん」と、ちょっと強引に買ってくれた。



自分のためにお金を使わせていることに申し訳ないと思いながら、でも、すごくすごく嬉しかった。



樹からのプレゼントはなんだって嬉しかった。



樹が着なくなったTシャツをもらうのもすごくすごく嬉しかった。


大きなTシャツはちょうど私にはワンピースになった。


まぁ、樹がその格好で外に行くのはダメだと言うから下にスキニージーンズを履いていたけれど。

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