「はい」


「何これ?」


「少ないけど、お小遣い。欲しいもの買いな」


「いい。もらえない」


「なんで?俺に気を遣わなくて大丈夫だよ。ボーナス入ったし」


「いらない」



彼女はお小遣い程度のお金を拒んだ。


年頃の女の子ならいくらあっても足りないくらいなはずなのに。



でも、それが彼女らしいと思った。



「欲しい服とかないの?」


「……じゃあ、これちょうだい」


「これって…俺のシャツ?しかもクタクタの」


「うん」


「それでいいの?」


「うん。あと、このTシャツも欲しい」


「うーん…まぁ俺は全然いいんだけど、そんなんでいいの?」


「うん」



彼女は、身一つで家に来たばかりの時に買ってあげた服をずっと着ていた。


新しい服はねだらず、俺の着なくなったサイズの合わないシャツとかTシャツを欲しがった。



あまりに物を欲しがらない彼女に服を買っていってあげれば、


「私なんかにお金使わなくていいのに」


と、遠慮しながら、でもすごく喜んでいた。



出かける時だけその服を着る彼女は愛おしかった。




たまには一緒に買い物に行った。


買い物に行くと俺のものばかり熱心に選んでくれた。


水族館にも行った。旅行にも行った。



まわりは不思議に見ていたに違いない。


でも、まわりの目なんて、俺も彼女も気にしなかった。



2人でいられればそれでよかった、はずだった。



お互いそう思ってると思っていた。



言葉はなくてもわかる。それくらいの時間を過ごしていたし、それくらいの関係になっていた。







だけど、彼女が18歳になるその日、彼女の好きなチョコレートケーキを買って帰ってきた俺を待っていたのは、白い紙切れだけだった。

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