仕方なく彼女も移動教室に向かう。



教科は家庭科。



運が悪いことに、自由席。


しかも、一つの大き目の机に向かい合って座る席。


それは4人で座るのに適したもの。



席はほとんど埋まっていた。


いつもと同じ、仲良しグループで集まった席。



行く場所なんてない。




彼女はこみ上げてくる涙を抑えて、いつもの、あの4人がすわる席に座った。


いつもと同じ、一人だけはみ出した席。




4人の顔は怖くて見れなかった。


でも、こそこそと文句を言っていたのははっきり聞こえていた。



それでも、彼女は気づかないフリをした。




家庭科の時間、怒っていたこともなかったことにして、「これどうやるの?」と、いつもと同じ笑顔をつくって4人に問いかけた。



私はもう怒ってないよ。


そういう態度をみせて、裁縫のやり方を聞こうとした。




でも返ってくる言葉はなかった。無視。


それを莉央が小さく笑っていたのを、朱里がにやりと口角をあげていたのを知っていた。



胸が切り裂かれるような想いだった。



でも、そこまで来たら引き下がれず、聞こえなかったのだということにして、ちょっと声を大きくしてもう一度尋ねた。



今度は一番近くにいた千夏を名指しして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る