P.12

【その④】


澤田朱里さわだあかり

大学の看護科に通う3年生。O型。蟹座。





同世代の学生が就活に悩む中、朱里は別のことにいっぱいいっぱいになっていた。



看護師は就職難の影響をほとんど受けない。


正直言えば、選ばなければどこでも働ける。



そんなことを言えば、羨ましいと世の就活生は思うだろう。



だけど、看護師はそんなに簡単になれるものじゃない。


看護実習という関門を何度も通り抜けなくちゃいけない。



そして今がまさに地獄の実習中。




家に帰るのはいつも20時頃。


家に帰って、レポートを終えれば時計の針は2時、3時になっている。


それから3、4時間寝てまた実習地へ。



何かあればすぐ注意されるし、理不尽に怒られることもあるし、何時間もかけて作ったレポートは赤字でいっぱい。


毎日その繰り返し。




「お疲れ」


「ありがとう、大樹」



恋人の大樹が駅まで迎えに来てくれた。


それに少し疲れがとぶ。




「明日休みだろ?」


「うん、やっと休みー」


「実習どう?」


「めっちゃきつい。バイザー怖いし。ナースが白衣の天使なんて妄想だからね」


「そうなんだ。大変だね。あ、ついたよ」


「ありがとう」



大樹と話しながらアパートへ入る。



久しぶりにポストを開ければ、1週間分の手紙やら広告やらが詰まっていた。



そして、それらをガバッとつかんで取り出せば、掴みきれなかった手紙をバラバラと下に落ちる。



「何やってんだよ」


「ごめん、ありがとう」


「ん?これ何?」



そう言う大樹の手には見覚えのある真っ黒の封筒。



「あーなんかそれ変な手紙なんだよね。嫌がらせ?みたいな」


「何それ」


「わかんない。とりあえず入ろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る