第71話

アルの力はもうないらしい。


 私が眠っている間、機関が総力を挙げて調べたようだ。


 肉体は人間と同じ、生体反応も何もかも一緒。


 だがそのうちに秘めていた無尽蔵ともいえるエネルギーはもうない。


 あの空間で燃え尽きたのか、もともと魔王としての役目が終わったから消えたのか。何もかもがわからないままだ。


 ただとりあえず、例の爆撃も絶滅ミサイルも飛んできていない以上、それが真実なのは確かだった。


「本当に、なんででしょうね。アルの力が残ってたなら助かったって言うのもわかるんですけど。そうじゃないのに二人とも五体満足でぴんぴんしてて、私はむしろ以前より回復が早いぐらいとか。いくら何でも出来過ぎじゃないです?」


「いいじゃないですか。出来過ぎご都合大いに結構。悲惨なのは現実だけで十分です。たまには何事もなく穏やかに暮らしましたで終わる話があった方がいいですよ」


「菅原さんって案外ロマンチストなんですねえ。今度おすすめの映画紹介しましょうか?」


「いえ結構。ロマンは先日のあなたの台詞からありったけ摂取しましたから」


「ロマンチストじゃなくてサディストの方だった」


 もういい。下手なことを言うと墓穴を掘り続けてブラジルに到達してしまう。


 私は口を閉じた。その後はもう菅原さんの質問にだけ答え続けた。アルはやはりずっと、私のベッドの上でごろごろしていた。


「……では以上で本日の質問を終わります。ご協力ありがとうございました」


「次はもうちょっと手加減してくださいよ……!」


「ははは」


「誤魔化されている……」


 あの人の笑い声を初めて聞いた。目が一切笑ってなかったしなんなら口も笑ってなかったけど。


 菅原さんはのらりくらりと、しかし振る舞いはきびきびとした動作で、その場から立ち去って行った。

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