エピローグ 世界の終わりと君の体温
第69話
「世界終焉自然発生型呪厄災害十三号。通称、魔王。危険度クラスは『Z』…。これはあまりの規模の大きさに完全な脅威のほどを観測しきれないという『測定不能』の意味も含みます。世界終末要因のうち、Zの冠された脅威は他に観測されておりません。魔王というのはそれほどの規模の危険災害なのです」
白い部屋の中、淡々とした声が響いている。
リノリウムの床に白く塗りこめられた壁。ベッドのシーツも枕も真っ白。典型的な病室のレイアウトの中、淡々とした声が響く。
「機関の発足以来数世紀……その前身となる幾多の神秘研究集団の歴史からも数えれば最早数千年を数えますが。魔王という存在は幾度となく観測され、その度甚大な被害を及ぼしてきました。世界が未だ存続できているというのは奇跡だと言う意見すらあります。我々の住む世界は薄氷の上に成り立っているのです。ただ一つ、魔王という災害がゆえに」
かちゃん、と何か硬質な音が響き渡った。他に音の発生源がないのか、その部屋の中では異様なぐらいよく響いた。
パイプ椅子に腰かけた男性-先ほどから話を続けている張本人―が眼鏡の位置を直す音だった。
弦の部分をずり上げて、フレームとブリッジが揺れて軽く音を発する。
長い脚を組みなおし、男性は小さく息を吐いた。そして膝の上に乗せた自分の足……その上にさらに自分の手を乗せると、指を絡めて握りしめる。
「そしてそんな魔王が元気に生存して今ここにいるわけですが。気分はいかがですか、一ノ瀬さん」
「菅原さん実は性格悪いですよね?」
「ご安心を。あなただけへの特別サービスです」
「こんな特別いらない……!」
思わず頭を抱えた。そのまま前に、要するにベッドに腰掛けている自分の体に向かって突っ伏す。
健康優良児で入院を一度もしたことのなかった私が、この短期間で二度も入る羽目になるとは。ベッドの白さが目に染みる。
「スガワラ!ユキをいじめるな!!!」
そんな私を上から抱きしめる影。
暖かい体温に顔をあげれば……と言って、真っ暗で何も見えないのだが。それでもその人物が誰なのかはすぐにわかった。
というよりこの場においては該当者が一人しかいないので、わかるもなにもないのだが。
「こら、アル。苦しいよ」
軽く手を伸ばして背を―アルの背をポンポンと叩く。
アルは、私からのその動作を感じた途端、すぐに拘束を解いて身を引いてくれた。
「ユキ、ユキ!大丈夫、苦しくない、痛くない?!」
「もう大丈夫。どこも悪くないし少しも苦しくないよ。言うこと聞いてくれてありがとうね、アル」
私のベッド脇で膝を立てて、目線を合わせてこちらを伺うアル。
本当に成長したものだ。昔は吐くまで揺さぶられたのに、今は少し合図するだけで解放してくれる。うんうん、成長が嬉しい限り。
いつものように頭を撫でてやると、アルは目じりを下げてとろけそうに笑った。
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