第66話

道をひたすらに歩く。


 のっぺりした道には小石も穴も障害物もない。ただただひたすらに歩けばいいだけだった。


 相変わらず馬鹿みたいに可愛い星が照らす景色の中、一人で先へと突き進む。


 魔王の領域、その深度……どこまでいけば会えるのか。そんなこと少しもわからなかったけれど、それでも何も問題なかった。何があったってたどり着くと決めていた。


 やがて、道が唐突に途切れた。


 真っ暗だった。アーサーの書いた星も花も木も草も、小鳥も雲も何もかもが消え失せて、一面真っ暗な世界に出た。


 振り返ってみれば、歩いてきたはずの道もない。いつの間にか消えている。


 どこに行けばいいのか。この先どうすればいいのか。アルはどこにいるのか。わからない。わからない、が、どうしてか、ここだと言う直感があった。


 踏み出した。上下左右の間隔もないまま、ただ自分の体のやや右側に向けて、一歩大きく足を出す。


 すると、つま先が何かにぐにゃりと沈み込んだ。と言って反発することはなく、ただ柔らかく受け止められて、つま先がそこに取り込まれている―。


 あそこだ。


 かつて私を捕らえた空間。何もないがあるアルの部屋。本能的な直感が、私をその場に導いた。


 体ごと前に出た。一瞬何かに受け止められる感覚があったが、すぐに消え失せた。


 私は投げ出された。引っかかっていた何かがちぎれて、身体が宙に放り出される。


 やっぱり何もない。


 上下左右どころか前後、いや、重力やそのほかの感覚まで。全てが消えた無の景色。


 浮いているのか立っているのかもわからないまま、私は体の向きを直す。とにもかくにも縦になりたい。最早その行為に意味があるのかもわからなかったが、慣れ親しんだ体勢はほのかな安心を連れてきた。


 ほっと息を一つ吐く。そして私は辺りを探った。


 何もない。真っ暗だ。最早色の概念すら消え失せるこの空間の中、それでも私は目当てを見つけた。


 何があってもたどり着く。


 自分で自分の言葉を偽らなかったことに安堵して、そのまま私は降り立った。


「アル」


 暗闇の中。蠢く何か。全貌すら確認できない大きな塊。そうとしか言えない何かが、私の前に存在している。


 それが、震えた。


 私の声を聴いた瞬間、突然体を揺らし始めた。

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