第十五話 世界の終わり

第65話

星が照らしている。


 と言ってそれは本物の星ではない。線で描かれたただの模造品。五つの鋭角を備えた五芒星と呼ばれる図像……をさらに適当に書いたもの。


 まさしく子供の落書きのようなおざなりな星が、頭上で瞬いている。


 道は先ほど以上にメルヘンチックな景色に彩られていた。

 あちこちで咲き誇る花々、飛び交う小鳥たち、池のほとりに立つリンゴの木。

 これらも全てアーサーが準備したものなのだろう。


 今まで来た道以上に手の込んだ景色に、思わず首を傾げそうになる……が、すぐに予想がついた。アーサーのことだ。わざとだろう。


 あの問いかけを受けて気持ちの沈んだ私をあざ笑うために、馬鹿みたいに可愛らしい景色を用意したに違いない。なんなら進む道どころか戻る道まで、この景色に彩られている可能性が高い。今頃は元の世界へと帰還している菅原さんも同じ景色を見ているのではないだろうか。


 何せ行くも戻るも地獄の道だ。アルを見捨てて逃げ帰るか、自分の偽善に打ちひしがれて所業を悔いながら歩みを進めるか。アーサーの思い描いていた私の未来は、そのどちらかだったに違いないのだから。


 本当に、どこまでも胸糞の悪いやつだ。


 けっ、と知らず声が出た。人を舐めるのも大概にしろ。何もかも自分の手のひらの上だと思いやがって。人の気持ちにタダ乗りしてたのはどっちだよ。


 私が言えた義理ではないが、それでもお前が言うなの境地である。やっぱり一発ぐらいぶん殴ってやればよかった。


 まあ。この道を消してない、ということは。やっぱり私の言葉が図星だったということだろう。


 今ここで道を消したら、ありとあらゆる意味で私に負ける。


 図星だったと白状して、みっともない負け犬根性で最後の嫌がらせをしたことになる。


 それを途中で止めるぐらいには、あいつにも意地があるらしい。


「案外人間臭かったのね、あいつ」


 人間じゃないけど。どころか感情自体も持ち合わせてはいないけれど。でも今のアーサーに、言い訳のしようがないほど心があるのは事実だった。

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