第64話

そして、私はその場で背後に振り向いた。自分が今来た道の先……アーサーの立つその方向に向かって。


「あとアーサー。あんたの趣味とやら、ようやくわかったわ」


 アーサーは愕然と口を開けていた。

 わなわな震えてこぶしを握って、信じられないと言う顔でこちらを見ている。


 私はそれを鼻で笑った。なんだか少し可愛くすら思えてきた。


「俺たちに感情はない。翻訳機能が見せてるまやかし……なんかかっこつけていろいろ言ってたけど。あんた絶対感情あるわよ。そうじゃなきゃそんな無様な顔晒せないもの」


「なっ……」


「模造人格機能を使い過ぎたのね。被った仮面がいつのまにか本物になったか、それとも人と交わりすぎたか。でもどっちにしろひよっこだわ。私どころかアルにも劣る。人間0歳児の若造が、偉そうに愛の講釈垂れてんじゃないわよ」


 アーサーがぎょっとして身を引く。


 私の言葉が効いているのか、私の強気に驚いているのか。多分両方だろう。ざまあみろ。私を舐めていた報いだ。高みの見物気取りで自分の欲望を満たしていた卑怯者に、くれてやる情なんかない。


「人間と魔王。本来感情を得ないはずの存在が得た突然の恋。その行く末がどうなるか。確かめたかったんでしょうけど……残念。これは私とアルの話。あんたと見知らぬ誰かについては、自分自身で決着をつけるべきだったわね」


 アーサーは今度こそ、息の根が止まったような顔をしていた。


 へえ。図星。適当言ってもあたるものだ。アーサーがそれだけわかりやすかったとも言う。


 カッコ悪い逆恨み……いや、未練たらしい小僧め。来世で会えたなら殴ってやる。応援なんかするものか。精々後悔して苦しんで悩んで泣いて笑って吹っ切れて、自分でケリをつけるといい。


「菅原さん。ありがとうございました。……さようなら!」


 大きく手を振って歩き出す。背後から聞こえる菅原さんの声。でも待てない。もう止まれない。選んでしまった。私は歩く。誰にも言わない気持ちを抱えて、そのためだけに会いに行く。


 私の魔王に会いに行く。

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