第60話
「好きって言葉に応えないで、あいつが差し出す好意にタダ乗りして、調子よく自分の身だけ守ってもらって、そのくせ都合が悪い部分に矯正を迫って。あいつはそんなこと気にもせず身を捨てに行ったけど。それなのにどうして会いに行くの?だってあいつの行いって、今までとずっと変わらないじゃない。のうのうと好意を搾取してきたくせに今更なんで同情するの?」
アーサーがこちらに歩み寄ってくる。
身長の低い彼は当然私を見下ろせるはずがない。ない、のだが。どうしてだが上から圧迫されているような威圧感が消えなかった。
私の真正面、あと一歩踏み出せばすぐにぶつかってしまう位置に、アーサーが立っている。
ぐっと強く顔を後ろに向けて、私のことを見上げている。
「相手の感情を受け取るがまま都合よく貢がせて、まともに応えず罪悪感すら感じず。今までずっとおねーさんがやってきたことだよね。なんで今回だけは止めようとするの?流石にそこまでされると座りが悪い?今更罪悪感感じちゃった?ねえ、答えてよ。いったい何の理由があって魔王を止めようとしてるの?」
―これか。
これが、アーサーがずっと腹のうちに抱え込んでいたものか。
アーサーが言いたかったのはこれなのだ。
初めてアルに会った日から、そしてその後機関で再会し、マンションで共同生活を送るようになった直後の時まで。アーサーはずっと何か含みを持たせた言い方をしていた。
あからさまに何か言いたげな顔をして、それでも何も口にせず。そのアーサーが言いたかったこと。私に対して考えていたこと。
アルとの関係の歪さに、ずっと物申したかったのだ。
言い訳ができないように全てを明らかにして、逃げ場がないように最後の選択の時になって確信を突いて。
私がこの場から去ろうとも進もうとも、アーサーの問いかけからは逃げることにできない。
答えなければ一生続く。アーサーの問いかけはずっと私の頭にこびりつく。
アルの好意を受け取るだけ受け取って、応えようともしなかったくせに、どうして今更止めるのか。
人外の美しい双眸が、逃がさないと言いたげに私を射抜いていた。
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