第57話
「待ちなさい!どういうことですか、魔王に感情が生まれた原因が一ノ瀬さんだと!?」
「あれ?見ないふりをしてたのはおねーさんだけかと思ったんだけど。菅原も気づいてなかったの?」
「気づくも何も……!魔王には本来感情がないなどという事実自体が初耳です。アーサー、魔王もあなたのように模造人格機能とやらを備えているのではないのですか」
「んなわけないじゃん。魔王にそんな機能搭載する必要ある?」
「な……」
菅原さんが言いよどんだ。
隙を見逃さない、とでも言うかのように、アーサーは畳みかけるように語った。
「まず。俺に模造人格機能がついてるのは魔王の被害と影響を最小限に留めたまま収束させるためだよ。俺は勇者の中でも一番若くして生まれた個体なんだ。瞬きの間に生まれそして膨張した、君たち人類という生命種に対応するための特殊個体」
アーサーが手を差し出す。
指先から現れる光の線…ぐにゃぐにゃと蛇行しながら暗闇の中を走るそれが、一つのイラストを描いていく。
それは猿だった。少しずつ、段階を踏んで人間へと変化していく類人猿。
よく見る図像、四足歩行から二足歩行へと進化していく人間のイラスト。
随分と手の込んだその図画が、暗闇の中でネオンサインのようにぴかぴか光っている。
「さっき俺が一番最初に魔王のもとに派遣されるって言ったよね。俺は地球に派遣されると、魔王降臨地の人間に憑依する。名もなき村人のこともあるし、その地を収める王の時もある。彼らの体に取り憑いて勇者の力を発揮……そして魔王を打ち滅ぼさせる。俺が魔王を討伐するときってのはそのパターンが多い。あいつらみたいに雑なことはやらないのさ」
アーサーの頭上に浮かぶ人間の進化過程……背後のサルたちが消えたかと思うと、先頭に立つ人間の頭に王冠がかぶせられた。
手には剣。青く光るその剣を、人間が思いっきり大上段に構える。
そして真っすぐ前へと振り下ろした。
目の前には何もいない……はずが、いつの間にかそこには不定形の怪物が。
赤く光る眼をした名状しがたい謎の生き物。
人間の持つ青い剣に切り裂かれて、一刀両断されていた。
あの青い剣。あれ、ついさっきも見た。
アーサーが自分たちを説明していた時に出現させていたもの。
つまりは、人間に自分が力を貸していると言いたいのか。
自分の模造人格機能と精神干渉の能力はそのためにあると。
「自分たちと同じ個体が超常の力を発揮して魔王を打ち滅ぼす。これなら人間たちは怯えないし騒がない。逆に俺が力を貸した奴は崇められたよ。超常の力を持ちし人間、まさに英雄だ、ってね」
菅原さんが目を瞠る。まさか、と呟く声が闇に溶けた。
「ほら、前言ってたじゃん。魔王は悪のアーキタイプ。世界中の神話伝承に見られる討ち滅ぼされるべき大災害の原型じゃないかって。あれ多分正解だよ。古代社会に降臨した魔王、その活動を見た世界中の人々が各地の神話でその脅威を伝承した……そんでその中の幾つか、怪物退治譚なんかにはまあ、俺が取り憑いた英雄の伝承も入ってるかもね?」
『他にもいっぱい名前はあるけど、これが一番わかりやすいかな』
アーサー。
まさか、アーサーの正体って。
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