第十四話 人間

第56話

「私のせい。アルに感情が生まれたのは私のせい……そう言いたいんでしょ」


 時さえ死んだ暗闇の中。音を飲み込む性質があるわけではなく、ただただ生き物がどこにもいない、それが故の無音。


 地獄のような沈黙の中で、私の声が響く。


 そこにこだまする無邪気な笑い声。


「はは……あっはははは!」


 随分と楽し気な響きだった。お腹を抱えて大爆笑、おかしくって楽しくって愉快で愉快でたまらない―そう言いたげな大笑い。


 暗闇の中、他に音を発する者のいないその場所で、ひたすらに笑い声だけが響き渡る。


 アーサーが、これでもかと口を開けて笑っている。


 目じりを勢いよく下げて、皺を刻み、口は大きく縦にも横にも広げて、腹筋を震わせながら……これ以上ないほどの喜びを表している。


 まさしく呵々大笑、辞書に乗せたいほどの大笑いの有様だった。


 アーサーはただただ笑い続けた。

 ひとしきり大声をあげて腹を抑えて、そしてようやく満足したのか、目元の涙を拭いながらこちらに向き直った。


 その場に立ち尽くす私と、信じられない顔でアーサーを見ている菅原さんを見て……にっこりと、これ以上ないぐらいの極上の笑みを浮かべた。


「正解、正解、大正解!ぱんぱかぱーん。正解者のあなたには特製勇者印のステッカーをプレゼント!」


 私の胸の辺りで何か物音がした。


 見れば、いかにもらしい華々しいワッペンがくっついていた。


 当然本物ではない。アーサーが私たちに見せている光の道、それと同じく光の線で描かれた紛い物だ。


 蛍光ピンクの太い線で描かれたそれは、さながらマジックペンで書かれた落書きにも見える。

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