第54話
「そもそもどの規模の勇者を派遣するかは下っ端からの報告で決められるんだよ。アリにバズーカ引っ張り出しちゃダメでしょ?勇者ってのも力が強すぎて扱いが難しいからね。一番戦力の低いのを派遣して、現状の魔王の戦力を確認させるわけ」
「それが今回はアーサーだった……ってこと?」
「そゆこと。その最弱勇者が運よく魔王を殲滅出来たら御の字だし、駄目だったら討伐時のインパクトを測定して適切な勇者を派遣できる……。俺たちは死の概念も与えられてないからね。倒されてもリスポーンするだけでリサイクル可能。なんてエコ!というわけで一番戦闘力も低く周囲への被害も少ない俺が派遣されてきたわけですが」
「あんたは趣味とやらで魔王の戦力を過少報告してた。それを怪しんであのおじさんが来たと」
「あはははは~」
「誤魔化すな。笑えんわ」
舌を出すな。頭を小突くな。可愛くも何ともない。
ざくざく切り捨てる私の言葉にもアーサーは堪えた様子はなかった。
「でも、俺が報告しなかったからしばらく穏やかに暮らせたんだよ?俺が正しく魔王の脅威度判定を報告してたら、速攻であの規模の爆撃が飛んできてた。むしろ感謝してほしいなあ。家族ごっこも楽しかったでしょ?」
ぽん、と軽い音とともに周囲に飛び散る光の線。
私の目の前でわざとらしく構築されたそれは、一般的な家の図像だった。
屋根と煙突を備える一軒家。
よく絵本に出てくるデフォルメされたそれが、私の前でぴかぴかと虹色に輝いている。
ぱっと手を振るうとそれは簡単に霧散した。アーサーはどうしてか残念そうに声を漏らしたが、全く本心とは思えなかった。
「ひとまず理解はしました。勇者。魔王を抑制するための遊撃装置。先ほどの爆撃は勇者そのもの」
「そうそう。勇者ってのも魔王と同じくらい大雑把だからね。魔王がこれ以上暴走して地球そのものがおじゃんになるよりは、って価値観での出撃になるから。ぶっちゃけ魔王よりひどい有様になることが多いよ。それはさっきの爆撃でようくわかったんじゃない?」
「……確かに。魔王が防がなければ、機関どころか周辺数十キロにわたって焼け野原になっていたでしょうね」
「そー。そんでそんなどんぶり勘定地球くんは、今回もまた大雑把に勘定しちゃったわけなんだな。勇者のエネルギー波がすべて防がれ、魔王は健在、殲滅には至らなかった。この規模の魔王を放置していては地球自身の存亡にかかわる。それこそ惑星そのものの消滅もありうる、とね」
ぱちん、とアーサーが指を弾く。
また現れた地球……今度は非常に手が込んでいて、青と緑で大雑把ながら大陸と海が表現されていた。
淡い蛍光に光るそれをぼんやりと見つめていると、アーサーはにっこりと、天使のような笑顔で告げた。
「そこで地球くんは結論を下したわけ。よし。いったん地表をリセットしようって」
「……」
さっきから今更だが、とても笑顔で言っていいことではないと思う。地表をいったんリセットしようって、それはつまり。
「うん。絶滅。現生生物の君たちは魔王もろとも心中すべし―地球はそう決定し、行使し得る限り最大規模のエネルギー塊を放出した。地表全てを更地にするために」
アーサーがまた指先を弾いた。
そして地球が燃え上がった。
青と緑の美しい球体が、火にあぶられたように真っ赤に染まる。
ちらちらと赤い光が揺らめいているのは炎か、それともマグマの表現なのか。
「君たちがさっき感じた恐怖心はそれだよ。絶滅への本能的な恐怖……不可避の宿命に対する生物として抗えぬ性。要するに死にたくない~の超強化版ね。いやあ、それを気力だけで乗り越えたとか、菅原マジキモい」
「そうですか。あなたからどう思われようと微塵も気にならないのでノーダメです」
「ほんと君たち俺に対してだけひどーい」
「あなたの与太に付き合っている暇はないので。……どうしてそこまでの規模の勇者の派遣を一足飛びに決定したのですか?被害規模が飛躍しすぎだと思うのですが」
「それだけ魔王が本当にまずい存在になってたってことだよ。何せ魔王、随分手酷く壊れちゃってたから」
「え?」
魔王が……アルが壊れた?
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