第53話

「これで大体説明し終えたかな?地球は一個の生命体、魔王の正体はその免疫。ついでに俺たちはその抑制機構。何か質問は?」


 アーサーが振り返った。

 肩口の地球も、その上に伸し掛かっていた魔王も、それを両断した青い剣も消えた。


 暗闇の中で光るのは最初から表示されている道だけ。


 菅原さんはしばし無言だった。どこか気落ちしたような顔で、俯いたまま歩みを進めている。


 だが、ややあって彼はまた顔をあげた。そして口を開いた。


「大体は理解できました。しかしこの状況はまだ理解できません。突如として訪れた爆撃と飛び去った魔王。それに以前魔王と一ノ瀬さんを襲撃した個体の真意も不明です。あなたにはまだ聞きたいことが」


「ああー、ごめんごめん。そっちの説明も必要だったね。えーと、こないだのおっさんはその勇者の一員。そいつが上に魔王の勢力を正しく報告したもんで、勇者個体による魔王殲滅の爆撃が始まったの。んで、それが全部防がれちゃったから絶滅ミサイルが発射されたってわけ。魔王はそれを飲みこみに行ったんだよ」


「……は?」


 菅原さんの歩みが止まった。ついでに私も止まった。二人してぽかんと口を開けて硬直した。


 アーサーはしばらくそのまま歩いていた。

 が、途中で私たちが着いてきていないことに気づいたらしい。


 いたずらやからかいではなく、純粋にわからなかったようだ。

 くるりと体ごと振り返ると、可愛らしい仕草で小首をかしげた。


「え、どうしたの?俺そんなに驚くこと言った?」


「驚きますよ……!あなた今なんて言いました!?魔王殲滅の爆撃、絶滅ミサイル!?あなたたちは地球を守る免疫機構じゃなかったんですか!?」


 泡を食った菅原さんが、今度は駆け足でアーサーに詰め寄る。


 長身の菅原さんと子供相応の身長のアーサーが並んでいると本当に大人と子供にしか見えない。


 といって、アーサーの中身が子どもなんかではないことは、先刻からの発言が否が応でも証明してくれている。


 今回もまた、アーサーはなんてことない口調でとんでもないことばかりを口にした。


「あー、その辺も説明したほうがいいか。勇者っていうのもさあ、本質は魔王と変わらないわけ。破壊エネルギーの集合体である魔王を抑え込むのなら、同じだけのエネルギーをぶつけなきゃダメでしょ。魔王の規模が大きくなり過ぎたら当然勇者の出力も大きくなる。その結果があの爆撃……ていうより、あの爆撃こそが勇者だよ。魔王を殲滅・消滅するための純粋なエネルギーの塊、それが勇者」


「じゃああの爆撃は、未知の勢力などではなくあなたの言う地球防衛軍とやらから発出された勇者そのものだと!?」


「そうそう。理解が早くて助かるー。で、なんでいきなりあの規模の勇者が出撃してきたかって言うと、あのおっさんのせいね。ほら、魔王とおねーさんの家を襲撃した変態。あいつが正しく魔王の脅威度を報告しちゃったせいで、それ相応のエネルギー塊が出撃しちゃったってこと」


 アーサーが再び歩き出す。

 手を後ろに組んで、随分と気楽な様子だ。


 まるでピクニックにでも来ているかのような。世間話の気安さで、アーサーはつらつらと現状を語った。

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