第52話

「まあ、とはいっても魔王がちょっとやりすぎなのも事実かな。地球黎明期から活動してる旧式だもんで、現行環境への適応が間に合ってない。機能拡張して無理やり運用してる状態だ。人類が誕生したのはつい最近だから、余計に魔王の仕事が過激に見えるのかもね」


 アーサーが指を弾く。

 また肩のあたりに地球が浮かんで、今度はくるくる回り始めた。


 私はそれを茫然と見つめていた。

 菅原さんは顔すら上げなかった。


 アーサーの声が相変わらず明るく響く。


「そんなわけで地球は魔王の活動を抑制する機能を新たに進化させました!さて、それは一体誰を指すでしょう~?」


「……あんただって言うんでしょ。見ればわかる」


「せいかーい!すごーい、見ただけでわかっちゃうなんて、超能力者みたいだね~!」


 白々しい。見ればわかる、は言葉の通りだ。

 ネオンサインのように輝く蛍光ブルーの矢印。それがわざとらしくアーサーを指し示している。


 自分で答えさせたくせに、何を笑っているんだこいつは。私は思わずアーサーを半目で睨みつけてしまった。


「俺たちは魔王の抑制プログラム……まあワクチンみたいなものかな。魔王が過剰に活性化しちゃった場合に派遣される特殊部隊だよ。そうだねえ。君たちがあれを魔王って名付けたんだから、さしづめ俺たちは勇者ってとこかな。抗魔王特化型遊撃自走プログラム。通称、“勇者”。うん。三流SFらしくていいんじゃない?」


 アーサーの肩の上、落書きの地球に光が集まる。

 収束した光線は地球の上に恐ろしい姿を象った。


 頭頂部から覗くねじれたツノ、大きく裂けた口、裾野に向けて広がり、うぞうぞと不定形にうごめく体。


 そして、頭部には爛々と輝く赤い瞳。


 その魔王が、突如として現れた光の剣で切り捨てられてしまった。

 まさしく一刀両断、兜割のしぐさで、大剣が深々と魔王の体を引き裂く。


 光の線で象られた剣は、暗闇の中で鮮烈な青色に輝いていた。

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