第十二話 さよなら
第44話
「無理だよ。君とそれ以外を選ぶ場面で、僕は絶対君だけを選ぶ」
私たちはしばらく向き合っていた。
アルの手を掴んだ手は自然と離れていった。
アルは心配そうに私を見つめて、何度も語り掛けてきた。
「ユキ。ユキ、どうしたの?どこか悪い?何かした方がいい?何してほしい?なんでもするよ、ねえ。ユキ」
赤い瞳は変わらない。真剣なまなざしで私を射抜く。そう。私を。私だけを。
背後の菅原さんや機関の人たち、病室で眠っている健太君のことは、意識にすら入っていない。
『彼は人間ではない』
菅原さんの言葉が、何度も何度も頭の中でフラッシュバックしていた。
ぱちぱち。
ひどく場違いな音が響いた。
のろのろと顔をあげてそちらを見れば、誰かが側に立っている。
辺り一面焦げ臭い焼け野原の中。全く場違いな美貌の少年。
おざなりで適当な拍手をして、アーサーはこちらににこりと笑いかけた。
「流石魔王。このぐらいの防衛はお茶の子さいさいだね」
青色の瞳が光り輝く。
いやに芝居がかった動作でこちらに近づいてくるアーサー。
アーサーのブーツの底から硬質な音が響く。時折混じる砂を嚙むような音は、まだ燻っていた燃えさしでも踏んだのだろうか。
「だけどもう時間だ。終わりだよ、魔王。これで最後だ」
そう言って、アーサーはどこか乾いたような笑みを浮かべた。
何かを諦めてしまったような……積み上げてきたものが最後の最後、台無しになったような。そんな表情をしている。
アーサーは何を言っているんだろう。終わり?最後?そもそもこの爆発は一体何なのか。私たちには、何一つわからない。
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