第十一話 君はあたたかい

第40話

「やめっ……!」


 叫んだ。何を止めようとしているのか、何を恐れているのかもわからぬままに。


 そして、目の前で火花が散った。


 火花どころじゃなかった。爆発的に燃え上がりはじける全てを吹き飛ばす爆炎が、辺り一帯を包み込む。


 爆炎が弾ける瞬間を初めて見た。小さかった火の塊が突如として膨れ上がり、一斉に火花を散らす。


 静かにはじける炎の塊を、眺めていた。


「え?」


 静かだ。何も聞こえない。


 目の前で吹きあがっている派手な爆炎-の割には、爆破音のようなものが何一つ響いてこなかった。


 どころか振動も来ない。これだけの規模の爆発、近くにいたら爆風や衝撃が伝わってきそうなはずだが……何もない。


 認識できるのはただ一つ、それが広がっていく光景だけ。


 まるで無音映画のように、ゆっくりと、炎が真っ赤な花を咲かすさまを眺めていた。


 そして、それが光の壁に阻まれている様子も。


「なに……」


 光の壁は微動だにしなかった。爆風も爆炎も音も衝撃も何もかも、その壁に阻まれてこちらには伝わってこない。


 おかげでこちらは壁に押し付けられてさらに勢いを増す爆炎をじっくりと確認できた。


 まるでアリの巣を観察するキットのようだ。本来見えないはずの断面図を切り取って外から観測できるガラスの檻。光の壁を境に、ぱっくりと分断が起こっている。


 爆炎はやがて収束し、壁の向こう側では煙が立ち込め始めた。

 もうもうと壁の向こう側を覆いつくし、視界が開けるのを阻んでいる。


 そして、それらは突如として振り払われた。

 何か竜巻でも起こったかのように煙が一気に巻き取られて、急速に視界がクリアになる。


 アルがその場に立っていた。


 先ほどのあのすさまじい爆発。壁の外でまさにその渦中にいたはずなのに、アルは怪我も火傷もした様子がない。


 何事もなかったかのように、いつも通り。


 アルの身体がぐらりと傾いだ。


「えっ」


 二歩三歩たたらを踏み、そして一度大きく大地を踏み鳴らし、アルはそこで体制を立て直した。


 ゆっくりと身を起こして、眼前を強く見据える。


 アルの手が背後に伸びた。

 手のひらを大きく広げている。


 それに呼応するかのように壁が発光した。


 折り重なる六角形の辺がそれぞれ強く光を発し、まるでハチの巣か何かのように見えた。


 よく見れば、いくつか六角形の面が剥離していたらしい。


 剥がれ落ちた面は一層強く光り輝き修復されていく。


 六角形の辺に合わせて一度光が走り抜ける。

 すべて終わったころには、光の壁はすっかり元通り。淡い光を放ちながら暗闇の中に鎮座していた。

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