第七話 同居人はショタ、時々、理解の外
第23話
にこにこと満面の笑みを浮かべるアーサー。まさに白皙の美少年とでもいうべき麗しの美貌を持つ彼がそうして微笑んでいると、それこそ天使みたいに見えてくる。
まあ、やってることは全然天使じゃなかったりするのだが。
「駄目です!物理拘束、魔術拘束、概念拘束、その他全てこちらの用意した拘束術式を受け付けません!」
「部屋ごと封印する滅獄術式の使用を許可する!第一種警戒態勢、総員即刻退避せよ!」
「あと毎回これ見よがしに捕まってから縄抜けマジックショーみたいにすり抜けられて術士のプライドがもうズタズタです!実家の茨城で家業の干芋製造を継ぐと言っています!」
「カウンセラーを手配しろ!辞表は絶っっ対に受け取るな!」
目の前でばたばたと走り回る機関の人々。定時もとっくのとうに過ぎたというのに、当直以外の人まで一斉に呼び出されたようだ。
私たちは泊まるはずだった機関の宿泊室。その中で大勢の人々が所狭しと歩き回っている。
すべては今目の前でニコニコ笑っている美少年―つまりはアーサーを確保するためである。
「そんなに躍起になって捕まえようとしなくても逃げないって言ってるのにさあ。信用無いなー、俺。傷ついちゃう」
アーサーは物憂げにため息を吐いた。部屋の中央に置いた椅子に座って、両手を頬に当てて頬杖をついている。
本人の言う通り逃げも隠れもしていない、のだけれど。
「だったら捕まってあげればいいでしょ。そしたら機関の人たちだって安心するよ」
ぽつりと漏らした私の本音に、アーサーはきょとんと眼を瞬いた。
しかしすぐに先ほどと同じ満面の笑みを浮かべて、一言。
「やぁーだよ。拘束は趣味じゃないもの」
無慈悲な一言と共にアーサーが椅子の上に立ち上がった。と思えば、その場から掻き消えた。ぎょっとして辺りを見回す私を、アルがぎゅっとより強く抱き込んだ。
「君たちも早くこの部屋から退避を……ってあれ!?」
機関の人の焦った声。ドアから半身を乗り出したまま、私たちに声をかけている。
その彼の背後に音もなく現れる影。
「えい」
ぽかん、と軽い音を立てて機関の人の後頭部へ一撃。と言っても本当に戯れのようなものだったようだ。機関の人は気絶することも悶絶することもなく、ぎょっと目を剥いて背後を振り返った。
部屋のドア、その向こう。ふわりと重力を無視してその場に降り立つ姿は、正しく天使のよう。
「も~!よそ見禁止!俺だけ見ててくれなきゃや~だよ♡」
どこぞのアイドルソングのようなことを言って、顎に手を当ててかわい子ぶるポーズ。
機関の人が驚きのあまり硬直し……そしてややあってから何やら悶絶していた。多分悔しさで。
「やだ。俺の可愛さでまた一人道を踏み外させちゃった……」
隅から隅までふざけている。こんなのにほいほい逃げられておちょくられていたら確かに茨城にも帰りたくなる。ていうか私も帰りたくなってきた。家に帰ってネトフリ見たい。
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