第18話
秋山は同期入社の同僚だ。
私が勤めているのはいわゆる中小企業で、社員の数も多くない……というわけで必然同期の数も少なくなる。
結果として同期同士は全員顔見知り、というかわりと仲良しになった。
社風のせいなのかお互いの距離の取り方が似通っていたからか、私たちの代の同期は不思議なぐらい全員うまくやっていると社内でも評判である。他の代の同期はまあ、会社で働いてるといろいろあるのだ。うん。
とにかく。私と秋山は気の置けない友人だった。社会人になりたてで不安な時期を共に励まし合い、切磋琢磨し合いながら乗り越えた仲。
私と秋山の関係は本当に同僚……より仰々しい言い方をすれば戦友のようなもの。性別こそ男と女だが、お互いの関係においてそれを意識することはほとんどなかった。
のだが。
「一ノ瀬と食事って久しぶりだよなー」
「そうだっけ?結構な頻度で飲みに行ってた気がするけど」
「それ他の人もいるじゃん。二人で、ってこと」
「あ、ああうん、二人はそうだね……」
途端に何やら言いよどむ私を見て、秋山はからからと笑う。
「そうだよ。だから俺、今日は楽しみにしてたの」
何でもない風に言われて、私は思わず口をつぐんだ。結局曖昧な返事をすることしかできなかった。
……いや、いやいや。
(そういう仲じゃなかったはずなんだけどなあ……)
自意識過剰、と言われそうな、いやここまで露骨ならそうでもないような。
はっきりと言葉にするのが躊躇われて、私は口をもにゃもにゃと動かした。
本当に一体どうしたと言うのだろう。すでに入社からそれなりに経ち、そういう仲になる人もならない人もいて、私と秋山は完全に『そうならない仲』だと思っていたのだが。何かきっかけがあったような記憶はないし……。
ああ、でもそう言えば。秋山は雰囲気が変わった。どこがどう、とうまく言えないが。なんとなく纏う空気と言うか、話し方の調子とか、ふとした時の視線とかが今までの秋山とは変化した。気がする。
そう、ちょうどアルの襲撃があった日ぐらいを境に。
「……一ノ瀬、俺の顔になんかついてる?」
「えっ!?ううん、なんでもないなんでもない!」
はっとした。否定の意味を込めて、手を横にぶんぶん振るう。
慌てた様子に秋山は少し不思議そうな顔をしていたが、すぐに気にならなくなったらしい。
「じゃ、早く行こうぜ。遅れると困るし」
「う、うん」
秋山の後を追って私も歩き出す。
脳内では、先ほど感じた疑問がぐるりと頭をめぐっていた。
秋山、なんだか今までと変わった。雰囲気だけじゃなくて、なんていうか、その。
秋山の目って、こんな色だったかな……。
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