第五話 わたし魔王さん 今あなたの後ろに跳んできたの

第17話

じーっ。


 …視線が痛い。


 じーっ。


 非常に痛い。そろそろ刺さる。やめて欲しい。


じーっ。


「あ、アル。どうしたの…?そんなに見つめて」


 私の問いかけに、アルはルビーのように鮮烈なその瞳を瞬かせた。


「…ユキ。なんか隠してない?」


 ぎくり。


 思いっきり肩が跳ねてしまった。

 ここ最近、とみに人間の文化慣習に馴染んできたアルは、私のその様子をみて意味を正しく理解したらしい。


 まんまるだったルビー色の目が、じとりと半目になる。


「ユキ。何か隠してる。僕に言えないこと?」


「か、隠してなんかないよ。何言ってるの、アル」


「嘘。ユキの仕草、なんか後ろ暗い所のある人間の動きだもん。こないだしゅーとめに詰め寄られてたゴサイノブンザイがそんな動きしてた」


 相変わらずアルの知識は昼ドラ方面に偏りすぎだ。そもそも後妻の分際はただの罵倒であって、人を呼ぶための名詞じゃない。


 だが、今は誤りを訂正している場合じゃなかった。


「ユキ。何を隠してるの?」


 じり、とこちらに近づくアル。


 狭いリビングの中、距離なんかそうはとれない。特にアルの長い足で近づかれたらすぐに追いつかれてしまう。


 窓から差し込む日の光を浴びて、アルは私に詰め寄った。

 私は。


「行ってきます−!今日は帰り遅いから、夕飯はチンして食べてねーっ!」


 逃げた。


「あーっ!?ユキ!?」


 アルの言葉が追いかけてきたが聞いちゃ居られない。だってそう、今日の業後には。


「お待たせ!」


「おっ来た来た!それじゃ行こうぜ」


「う、うん」


 秋山と食事…なのだった。

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