第15話
「ユキ−!」
私に向かって勢いよく飛び込んでくるイケメン。先ほどの恐ろしい威圧感はどこにもなく、今はただただ上機嫌に笑っている。
見た目はやっぱりこの上なくかっこいいし、そんな人が微笑みながら私を抱きしめてくるのはやっぱりドキドキする…。
なんて言うと思ったか。
「何でここに居るの!?」
オフィス内の階段の踊り場。
普段から人気が少なく人通りがない方の階段に来ているので、見つかる心配はほぼ無いと思うが…。声を聞かれて駆けつけられたらたまらない。
私はこそこそと、あくまで内緒話の声量でアルに迫った。
一旦抱きしめる腕を緩めたアルが、私を見て小さく首を傾げる。
「ユキが居なくて寂しかったから…」
「だからって会社まで来ちゃダメだよ!それに窓の外であんな風に浮いたり力を使ったりして!他の人たちに見られたら……」
「うん!だからちゃんと他の奴らには見えないように幻惑術使ったよ!」
「そうじゃねえんだよなぁ……」
見られなきゃ何してもいいとは言ってない。ゲームのバグ技探しみたいなことしよってからに。RTAしてるんじゃないんだぞ。大体姿は見られなくても光が漏れていて、意味がなかったじゃないか。
私はがっくりと肩を落とした。アルは私を不思議そうに見つめている。
「アル。会社に来ちゃいけません」
「なんで?誰にも見られてないよ?」
「そもそも会社って基本的には部外者立ち入り禁止なのよね……」
「僕部外者じゃないよ!僕はユキの……えーと、愛人でしょ!」
「昼ドラの弊害」
「それともあれだっけ。情夫?若いツバメ…とかなんとか?人間は好きな男のことをそう言うんでしょう?」
「人聞きがストップ安だよ……」
恋人という言葉を教えなかったばっかりに。いや恋人認定されても困るけど。何せママだし。自称じゃないけどそこは譲れないし。
「とにかく!勝手に会社に来ちゃダメだし、勝手に人を攻撃しようとしちゃダメだし、勝手にビルを破壊しようとしちゃダメです。お帰りください」
「えー!ユキも帰ろうよ!僕ユキと一緒にごろごろしたい!」
「ははは、社に持ち帰って検討いたします」
「なにそれー!」
ぶうぶう文句を言いつつも、アルはなんだかんだ帰る用意をし始めた。最後の最後、結局私の言うことには従おうとする辺り随分素直である。
聞いた上で拡大解釈したり抜け穴を探してすり抜けてきたり意図して無視したりもするけど。基本は素直でいい子なのだ。私もママとして鼻が高い……。
「あっ一ノ瀬!さっきの主任相手の大立ち回すごかったな〜!でも一体急にどうしたよ、こんなところでこそこそして」
同僚の秋山君が私の肩をぽんと叩いた。
いったいいつから。ていうかなんでここに。言いたいことは色々あったが今大事なのはそこではない。
彼と私は同期入社で、男女の別なく普通に仲が良い。と言うわけでこの身体的接触も何かの意味を持った物ではない。
私もよくやるし、本当に気安い中の友人同士、気の置けないただの挨拶だ。ハイタッチの延長みたいなものである。
が。それが目の前のアルにはまあ、どう写るかと言うと。
「待っ」
間に合わなかった。
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