第3話

部屋の壁に作られた大きな窓。自然の光を取り入れ調和させる伝統ある屋敷づくりの様式をふんだんに取り入れた、クラシックな部屋の間取り。


 ここが、シャルル様の居室である。


 部屋の造り自体は古き良き時代を感じさせるもの―公爵家の歴史の深さが伺える―だが、中の調度品はなかなかにモダンだ。


 舶来品の蔓で作られたランプシェード、オリエンタルなラグに小物。そこに当世風の猫足椅子や透かし彫りのチェストなどが置かれている。


 一見ちぐはぐでかみ合わない家具のセットだが、配置の妙か組み合わせの優か、まるであつらえたようにこの部屋の中に馴染んでいた。部屋そのものが芸術品かのように、全体で一つの整った形をなしている。


 柔らかな日差しが差し込む部屋の中、私とシャルル様はお互いに向き合っていた。


 朝のお目覚めから朝食をお取りになり、その日届いた手紙のチェック。領地経営の勉強の一環として旦那様から任されている仕事に取り掛かり、昼食を終えて執務に当たられることしばらく。昼下がりの日差しの中で私はシャルル様に声をかけた。本日の最重要予定、その準備をするためだ。


 相変わらず異次元レベルに美しいかんばせに向けて、私は勢い込んで宣言した。


「いいですか!本日のお見合いの相手はルンペルシュテルツキン大公家のお嬢様です!家柄よし見目よし教養よし、はっきり言って私達にはもったいなさ過ぎるほどの格のご令嬢!本当にどうしてこんないい縁談が舞い込んできてくださったのか……。この千載一遇の好機を逃すわけにいかない。お分かりですね、シャルル様?」


 ……まあ、その分かなり性格がアレだという噂も聞いているが。だからこそその家柄と格をもってしても今まで縁談がまとまらなかったと専らの評判だし。


 とは言えそれはこちらも同じこと。渡りに船のこんなチャンスを逃すわけにはいかない。気合を入れなければと、私はぐっと拳を握りしめた。


 と、言うのに!


「怖い顔をしないで、アン。でもそんな顔も可愛いね。愛してるよ」


 この人はなんでこんなに呑気なんだ!


 思わず肩の力が抜けそうになった。なんて、何たるやる気のなさ!これから縁談に向かうと言うのに他の女にうつつを抜かしていいものか!ことの重要性を理解してくれている気がしなくて、私は思わず天を仰いだ。


「シャルル様!いい加減その無節操な告白癖をおやめください!あらぬ誤解を招きますよ!」


「誤解?とんでもない。僕はいつだって本気だよ。アンのことを心の底から愛している」


「あああ、もう、だからそういう所ですよ!本当にしっかりしてください!こんないい縁談、今後二度とないかもしれないんですからね……!」


 相変わらずのシャルル様の言葉を軽く受け流し、私は部屋の側面に作られた戸に歩み寄る。出入口とはまた違うところに作られた扉。いわゆるウォークインクローゼットである。

 勝手知ったる仕草でずかずかと中に歩み入ると、私は衣装の物色を始めた。


 ジャケットを見繕っている私の背後に、シャルル様がのんびりと歩み寄ってくる。


「ああ、そのジャケットがいいな。ここ最近はオールドスタイルが流行りだろう。ルンペル大公は世事の動きに敏感だからね。そちらのほうが喜ばれそうだ」


「……ええ。そうですね。ではシャツの方もクラシックスタイルのこちらでいかがです?この襟の形状だとスカーフよりジャボの方が品よく仕上がりますね」


「流石アン。飾りボタンで遊びもあるし、単なるクラシックスタイルに収まらない辺り大公の好みにも合いそうだ。それ以外の装飾品は……」


「お待ちを。今並べますので」


 ウォークインクローゼットの中をさらに進み、ジャケットとシャツに合わせる衣服を取り出す。クラシックスタイルらしくきっちりとベストを着こむか、それに合わせて下履きまでブリーチズで揃えるか、それともこちらは通常通りスラックスを選択するか……。


 ジャケットとの組み合わせと大公の好み、それに何よりこの方に似合うかどうかを脳内でシミュレーションしながら、いくつか案を出す。

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