第3話
「まさかも崎山にも見えてるとは……なんで私が見えてるってわかったの?」
「花村がずっと先生の頭の方見てたから。日本史の時も、古典の時も。でも二限と三限の時はそうじゃなかったし。だから俺と同じように見えてるのかなー、って」
なるほど、と納得して、私は目の前のメロンパンに噛り付く。隣の崎山も同じようにコロッケパンを味わっていた。人気のない屋上近くの階段には、私たちの会話する声しか聞こえなかった。
四限が終わり、昼休み。私は崎山に声をかけてこの場所まで誘った。崎山も最初からそのつもりだったらしく、大人しく購買で買ったと思しき袋を提げてついてきた。
人気のないこの場所に来てどちらともなくしゃべり始めたのは当然あの話題。突如として皆の頭に花が生えたことについてである。
「驚いたよ。今朝起きたら父さんにも母さんにも妹にも花が生えてんだもん。何だよそれって言ったら逆に頭おかしい奴扱いされるし。頭に花生やしてる相手に言われたくねえよ!」
「あー、わかるわかる。私も頭で馬鹿みたいにチューリップ揺らしてるお兄ちゃんに笑われた時はその花むしり取ってやろうかと思った」
「……ていうかアレ、触れるのかな」
「わかんない。これ以上変な動きしたら本格的に頭の検査進められそうだったし……」
「だよなー」
二人してげんなりと溜息を吐く。結局崎山もこの現象の原因も花が咲く基準もわからないらしく、対処法はないままだった。
どうして急にこんなものが見えるようになったのか、そもそもあの花は何なのか……完全に手詰まりだ。私たちはただお互いの苦労を分かち合うことしかできなかった。
「でもまだ崎山がいてよかったよ。もしかして本当に私の頭がおかしくなっちゃったかと思ったもん」
「だなあ。俺も花村が間抜け面して先生の頭の上を眺めてなければ自分がおかしくなったかと思ってた……おい痛いって!悪かったよ謝るから!」
ふん、と鼻息一つ、私は崎山の脇腹をつつく肘を引っ込めた。ちょっと感心したと思ったらすぐこれだ。いつもいつも無駄に突っかかってきて、本当に何なんだろう!
メロンパンを食べ終わって、包み紙を折りたたみながら鼻を鳴らした。
「とにかく。あの花は幻覚じゃないし、私たちの頭はおかしくなってないし、でも特に対処法はないのでこのままにしとくしかありません。って感じか。他に何かある?」
「ないない。まあ精々、あんまり頭の上見ないようにお互い気を付けようぜ、ぐらいじゃねえの」
「まあそうだよね。それじゃ、何かあったら連絡しよ。ほら携帯だして」
手早く崎山と連絡先を交換する。そう言えばしょっちゅう話す癖にそんなことも知らなかったのだな、と今更ながら気づいた。
「そう言えば花村の頭には咲いてないよな。一応聞くけど俺は?」
「ないよ。崎山の頭もなんもない」
「そっか。この花の咲く基準も謎だよなあ。年齢とか性別とか、それ以外にも特に共通点ありそうにないし」
「もうほんとわけわかんないよ。あのムキムキ荒川の頭には可愛いパンジー咲いてるし、現文のひなこ先生にはなんか名前もわからないような鋭角的な花咲いてるし」
「わあ……」
崎山のあきれ顔を背景に、ぴろん、と連絡先の交換を告げる音が鳴った。
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