第50話

何?と首を傾げると、健はギュッと私を掴む力を強めた。




「1回でいい。ヤらせ……」



「無理っ!」




とんでもないことを言い出す健に速様言い返す。




健め…!ホント、変態だよ!!



そんなの無理に決まってる。



絶対に嫌だ。





「あ?別にいいだろ?1回くらい」



「絶対に嫌っ!好きな人としか……」



「うっせぇなぁ…っ!!黙れよ!!」





“したくない”と言おうとした瞬間、大声で声を遮られた。




ドンっと鈍い音と振動が伝わってきて思わず目を見開く。




健が私の顔のスレスレのところを殴ったんだ、って気づいたのはその数秒後。



いきなりのことで呆然と固まってたら、健は何も言わずに美雪が待つ部屋の中に入って行った。




か、壁が凹んでるっ……。





「……もう、何なの?」




急速に胸が苦しくなってズルズルとその場に座り込む。



掴まれていた腕が痛んで目に溜まっていた涙が頬を伝った。




健…。どうして怒ってたの…?



私、何かした?



最近の健、ちょっとおかしいよ。



変なことばかり言うし……。





「お客様?大丈夫ですか?」




泣いてる私を見て店員さんがビックリした顔で手を差し伸べてくれた。



20代くらいのお姉さん。




「あっ…、大丈夫です」



「本当に?」



「はい…。ありがとうございます」





涙を指で拭って差し伸べられた手を取り立ち上がる。




申し訳なくてペコッと頭を下げると、彼女は優しく微笑んで忙しそうに去って行った。




どうしよう……。



知らない人にまで心配を掛けてしまった。



情けないや…。




とにかく、ずっとココでこうしているわけにもいかない。




早く部屋に戻ろう。

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