第36話

「昨日はごめんねっ。私から一緒に寝ようなんて誘っておいてっ」



「……は?」




涼とは違うハスキーな声が部屋の中に響く。




嘘……!?



急いで振り返った私は部屋の前に立ち尽くしていた人物を見て固まってしまった。




「た、健?」



「涼にさ、用事があって来たんだけど」




部屋の前にいたのは涼じゃなくて健だった。




「お前さ……、涼とヤッたの?」




健はいつもより数倍低い声を出しながら私を睨む。




ってかどうして健がいるの?



そして、どうして怒ってるの?




「ちっ、違うよ!何もしてないから……」



「じゃあ、さっきの発言は何なんだよ?」




健は無表情のまま冷たい声で言い放つ。




「さっきのは……」




正直に言いかけてやめた。



昨日のことを健に言えるわけがない。




『一緒に寝ようって自分から誘っておいて、緊張しすぎて寝たふりをしました』なんて言ったら、それこそ笑いのネタにされるだけだもん。




「ふーん。昨日、あいつと人には言えねぇことしたんだ?」




部屋の前で立ち尽くしたままだった健は中に入ると苛立たしげに部屋の扉を勢いよく閉めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る