第14話

ただただ沈黙が流れる。



健は小さくため息をつくと私の顎を指で掴んだ。




「言わねぇならキスしてやる」



「え、キス?……健と私が?」



「そ。俺とお前が」




指で顔を上に向かされて健と強制的に視線が交わる。



細められたつり目に一瞬で視線が奪われる。



唇を親指でスッと撫でられて背筋がゾクッとした。




「ちょ、ちょっと、ヤメてよっ」




私の制止する声を無視して徐々に近づいてくる健の顔。



両手で体を押し返してみたけどビクともしない。




え、ちょっと……健、本気?



キスなんて出来るわけないよ。




目に涙が溜まる。




「嫌……んんっ」




嫌だ──。って言おうとしたら誰かに後ろから口を手で覆われた。




背後からフワッと抱き締められて、頭がトンっとその人の胸板にあたる。




「……ダメだよ」




静かな廊下によく通る綺麗な声が響く。




その声の主が誰なのか振り向かなくてもわかった。




だって、もう何年もずっと聞いてきた声だもん。




「……涼」




いきなり現れた涼に健は驚いたように目を見開いた。





「キスしちゃダメだから」




涼はいつも通り冷静にやんわりとした口調で健に言う。



だけど、いつもと少しだけ声色が違うように感じた。




涼、怒ってる?

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