第13話

するとかしこまったファハドに対し、ばあや様は照れくさげにこう言いました



「実は、お懐かしい貴方の御国の藩王妃様〜


大切に手塩に掛けてお育て致しました我が姫様の近況


姫様の掌中の珠であられるお嬢様の、健やかな成長を是非に聞きとうございます


勿論、お話し出来る範囲で構いませぬ故」



ファハドはニコッと微笑みました。


それだったら幾ら話しても魅惑の話題は聖なる泉の如しで決して話し足りないでしょう



「では今宵、随分と長い時間起きていなくてはなりませんね!」


「温かな、とっておきのバター茶をご用意致しましょう


それとも挽き立てスパイス入りの芳醇なミルクティ〜

チャイがおよろしいかしらね?


カルダモン、シナモン、クローブ、ブラックペッパー、ジンジャー


たっぷりのシュガーを入れ煮出す甘くお疲れが取れるお紅茶ですよ?」


「それはもう、どちらも味わいたいですね!」



二人とも無事交渉成立です。


お互いに決して損をせず、望みの物を手に入れることが出来ました。



早速指示の元、クミンシードを炒めた以後の、数多のスパイスの品種と分量を記録しました。


故郷の料理人誰もが全て失敗した「秘密」、究極のガラムマサラ製作に挑みました


ばあや様はクミンシード、コリアンダーシード、シナモンスティック、クローブ、カルダモン、フェンネルシード、ブラックペッパー、ベイリーフ等々……!


実に手際よく選び取り、天秤で正確に量っては小皿に流し込みます。


アレヨアレヨ、各国の良品より更に選び抜かれた最高かつ大量のスパイスがビッシリと真砂なす夜空の星のごとく無数に並びました



「一度全てホールのままで炉の弱火で乾煎カライりし〜


素晴らしい香りを引き出した後、細かく石の乳鉢で全部すりつぶし完成です」


「!ホゥ成る程」


「『香りの王様』〜

グリーンカルダモンはサヤの皮をむいて中の種子だけを使います」


「〜〜〜!これは又頑丈な……

黒い種子を取り出すのに随分と大変ですね」


「その通り当たり前です

煎った後、石の乳鉢でしっかり潰し挽いて粉にして下さいな


かなり固く、ピンピンッと必ず顔を弾きますので目に入らぬようお気をつけを」


「〜〜〜!〜〜〜!」



繊細な作業は明け方まで続きました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る