第9話
「これは凄いなぁ……」
「ええ本当に」
ファハド達が見下ろす眼下は文字通りの、えも言われぬ素晴らしき絶景でした。
巨大な氷河が削り取って出来たという見事な天然の路……!
自分達が今まで登ってきた険しき山岳ルートが鮮烈なパノラマでどこまでも彼方まで雄大に広がっています。
薄い冷え冷えとした清涼な大気の中、言葉も無く無言で景観を見とれて居ると、ヒュウと一陣のつむじ風が頬を撫でます。
ハッと思わずファハドが振り返ると、身分卑しからずな、品良く整えられし上等の毛皮の装束をまとう背の高い人物が
「そちは案内役なのか?」
きっとガイド役の青年が自身で言っていた、ばあや様の住居まで導くという人物なのだと考えを巡らせました。
コクリと頷く相手は、そのまままるで「ついてこい」といった風情で鷹揚に手招きします。
口数少なく目線のみ、一本の奇妙に平べったい山道に誘導致します
「我々に自分の後を付いてこちらへ来いという事だな?」
「その様でございますね」
「仕事が早いな、感心だ」
「ええそのようで」
ウズウズ先を急ぐ彼にとっては、実に願ってもない素速く有り難き展開でした。
一行に示された路は、先程迄の滑落したらば確実に死ねる危険路ではありません。
切り立った断崖絶壁の、人一人すり抜けるがやっとの狭い道なりとは大違い、足場の良い緩やかな傾斜でした。
『御高齢の主が歩き易いように、彼により整えられたものだろうな……』
ファハドは地表に小石ひとつ無い滑らかな地面の様子に男の深き忠義心を察し、フムフム感心致しました。
一行が本当に最後の力を振り絞り、全力で柔らかに暮れなずむ山道を登り切ると終点には小さな広場が現れました。
彼等の視線の先にはボンヤリ灯りが灯された、外観を隈無く磨かれた石でビッシリ覆う個性的な外観、厳しい風雨に対し見るからに頑丈そうな小屋がありました。
そうです、きっとここが探し求めた、お妃様のばぁや様の隠遁先の住居に違いありません。
日暮れの時間的に、きっと住人の夕食時なのでしょう
温かな夕餉の香りがゆったりと、周囲に優しい匂いを振りまいておりました。
幸福の食欲をそそる香りにグゥウウウと、ファハド達のお腹が盛大に鳴りました。
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