第56話

それからしばらくたって芳樹から手紙が届いたんだよ。亡くなったとされる一か月も前にパソコンでうった文章だったんだけどね。

大友幸人様、この手紙を呼んでる時、俺はこの世にいない。俺は余命わずかだそうだ。幸人。エースと言っていいかな。エースはきっとボッチャで世界に注目されると思う。だけどそれは幸人らしさをボッチャに奪われてはいけない。エースがエースであるために君は人の死に馴れてはいけない。泣いたっていい。俺はエースを天国にいても見てる。君は君らしく弘君を舞台に連れて行ってくれよ。俺の分もなんて言わないが、エース、お前は俺の存在価値だ。だから頑張れよ。っていうのが最後の手紙だった。

そしてパラリンピックでメダルを取った僕は、教員免許を取るために大学にいったってわけ。弘は今思えば僕をいつから好きだったんだろうね。僕は弘に意識し始めたのは、小学校の時だったけどね。弘はそのぐらいカッコいいしね。というとみんなは泣いた顔が一気に笑顔になった。みんなにまず一番に優先してほしいのは自分の命。その次に親や仲間だよというと、これで僕の話は終わりますというと、井手先生が泣いたんだ。この人涙もろいと思った。印象が違うとも思ったのは僕だけではなかったようだ。生徒全員がそう思った。井手先生は自分は今まで気が張っていたのだというのだ。そしてこれからは怒鳴り散らしたりはしないことを約束した彼女は、それからというもの、いでっちと呼ばれても決して自分を出したりとかはしなかったのである。

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