第89話

「ただいまー」


玄関を開けると、


「……ッン! ワンッ!」


ペコが″ 待ってました ″ と言わんばかりに駆け寄ってくる。


ん? まだ、散歩にも行ってない?



「お父さーん、遅くなってごめん、もうご飯適当に食べた?」



どうせ聴こえなかったのだろう、返事のないリビングへと向かう。




「やっぱりお父さん、いるんじゃない」



お父さんは、テレビを見ている訳でもなく、ボンヤリとテーブルの上を見つめたままお茶を飲んでいた。



テーブルに、もう一つ湯飲みがある。

お茶は口をつけられずに残されていた。




「お父さん、誰か来たの?」



そして、湯飲みの側に銀行の封筒が……。



「なに、それ?」


お金?



お父さんは、ようやく私に気付き、その封筒を持って突きつけてきた。




「良くは分からなかったが、門口って女がお前に渡せと持ってきた」



「え?」



門口?



「手切れ金として受けとれって」



「は?!」




門口の母さん、ここまで来たの?!



恐る恐る封筒を覗くと、札束だった。

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