第87話

「私ったら! すみませーん!」



慌てて離れる素振りを見せながらも、門口の胸元に顔を寄せたまま、その美女は勝ち誇ったような顔で私を見る。


「やっばり青さん、たのもしいですね!」



写真を見ただけで断ったはずの見合い相手。


それでも、身体を寄せられた門口は悪い気はしないらしく、困ったような、恥ずかしさを隠したような顔をしていた。



それを見て、ショックというか、がっかりする自分がいる。




「……京子、控え室行ってみよう……」




兎に角その場から離れたくて、



「……門口さん、わざわざお送り頂いてありがとうございました」



「あ、おいっ」



門口の顔も見ないで花嫁の控え室の方へと向かった。



あんな事が気になるくらい、門口のこと好きなわけ?



「真樹、なんであのくそ生意気小娘に言い返さないのよー」



違う。



「……全部、事実だからよ」




私はあの子みたいにキレイじゃないし、アラサーで肌もくすんできてパステルカラーの服は似合わなくなってきたし……。



ーー自分の女としての価値を見出だせないから。








それでも、同級生のウェンディングドレス姿はとても美しく見えた。



女は幸せを掴むと自然とキレイになれるのかもしれない。

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