第76話

門口からのラインを見ると自然と口元が緩む。


そこへ、


「朝からニヤニヤしていいことあったのかよ?」



克己がタバコの匂いを漂わせて私のスマホを覗き込みに来た。



「……別に。おはようございます」



いくら元彼でも、こういうのは止めてほしい。


カタカタ……


口元を引き締めて昨日の光建設への簡易請求書を正式なフォームに入力し直していると、



「……真樹の髪から、門口の匂いがする」



また、上から爆弾を落としてきた。




「え? やっばり昨日?!」


前の席の荻田や、女子社員達の好奇な視線が一斉に私に集中。



「ほんとだ、制服からも何か漂う」



荻田が調子に乗って、クンクンとベストの匂いを嗅いでくるから、


「近い!」


そのブルドッグみたいな鼻をクリアファイルで押しやった。


皆笑っていたけど、



「遊ばれてんのに気がつかないで早速ヤっちまったのかよ」



克己の顔は笑っていなかった。




「あんなやり手社長が、真樹みたいなリース会社の事務員に本気になるなんて思ってないよな?」




私の胸のしこりをつまみ上げるような言葉は続く。




「ヤられて終わりだよ」

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