第36話

「いらっしゃいませー」



門口が連れてきた店は、某百貨ビルの二階にある、私が入ったことのない上品な店だった。


店員もモデルみたいにキレイ。



「うわー、AIME×に、Dorry Dol×もあるー♪

可愛い♪」



京子が言うブランド名は全くわからない。


ただ、京子が可愛いと言ったワンピースタイプのドレスは、28歳の私たちには若すぎる気がした。



それに、予算よりかなりオーバーする。



こんな高い店に連れてきて、足りなかったら出してくれるのかね?

このベンチャー企業の社長様は。



チラリと、門口を見ると私たちからは視線を外してスマホで電話をしている。


連れてくるだけ連れてきて興味ないならもう帰ればいいのに。




「お呼ばれ結婚式のドレスをお探しですか?」



そのハセジュン並みの美人店員が近寄ってきた。


「は、はぁ……」



今、私の胸の猫を見たよね?


顔がバカにしたように笑ってる。



元々、私はお洒落にはあんまり関心がない。

というか着飾るのも気取るのも苦手。


女子力は極めて低い。




……そんな私を元カレ克也は、″好き″だと言ってくれた。


″飾らない真樹が一番いい″ って。



本当に貴重な存在だったよね。



「お客様には、これなんかお似合いだと思いますけどね」



ちょっと感傷的になっていた私に店員が勧めたのは、



「え」



これだけシャレオツな服がある中での、見事なオバサンスーツだった。



フォーマルはフォーマルでも、これは喪服でしょう?




「これは結婚式だけじゃなくて、入学式や葬儀の時にも着られる優れものです」



そう言われて二十歳の時に買ったフォーマルの四点セット、ほとんど袖通すことなく持ってるっつーの。




「あ、いや、こんなんじゃなくて」



その何の飾り気もないスーツを、(しかも五万円もする) なんちゃってハセジュンがしきりに勧めてくる。



「絶対にお買い得ですって」

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