第28話

ーーーーー




うちのお母さんは、3年前に心臓を患って亡くなった。


亡くなる前の二年間はほとんど入院生活だったけれど、それでも最期までとても気丈で明るい人だった。



「もう、お父さん耳が遠いから声を張るのに疲れるー」



お母さんのこの口癖も、愛情表現だったように思う。



片方の聴力を幼い頃に無くしたお父さん。


補聴器がまだ充分でなかった時代。

学力もみるみる低下し、高校進学を諦めたあと、近所の工務店で見習いの生活を始めた。



その工務店の娘がお母さんだった。



二人の馴れ初めや恋愛話は、耳にタコができるほど聞いた。




そんなにお互いに思い合ってたのに、お母さんの葬儀の時も、お父さんは泣かなかった。



男女の愛情の差を感じてガッカリしたの覚えてる。




トントントン…。




GW初日の朝。


連日の残業でゆっくり寝たかったのに。


まだ眠たい私を起こしたのは、お父さんの金槌の音だった。



家の倉庫の屋根でも直してるんだろうか?


休みの日なんだから、もう少し気を遣ってよ。




「…ふぁ」



欠伸をしながら、台所に向かうとペコが尾っぽを振って近寄ってきた。




「おはよー、ペコ、ご飯は食べた?」



しきりに私の手をアマガミするあたり、まだなんだろう。

フードを出していると、



RiririrIriririririr




私のスマホに着信が。



ん?


誰だっけ? この番号。






「もしもし…?」

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