第10話
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「おーい、森山」
所長の呼ぶ声に直ぐに反応できない。
「オーいっ、耳まで遠くなったか?!森山っ!」
「 聞こえてますよっ!」
何故なら、年度がわりで書庫の伝票類を処分するものとしないものと選別して箱に入れ運び出していたから。
その段ボールの重たいことといったらもう……。
「なんだ森山、そんな肉体労働、野郎にさせればいいじゃないか」
「はい、私もそう思いますが、うちの男性社員は気の利く人いなくて」
書庫から事務所を見渡せば、パソコンの前で欠伸をしてる荻田に、新人の事務員とくっちゃべってる江島。
そして業務時間にもかかわらずスマホでゲームをしてる池本がいた。
三人とも一応、性別は男。
「男どもー、か弱い森山一人に整理させないで手伝ってやれよー」
所長、その言い方、ちょっと嫌味に聞こえます。
「森山さん、俺らより逞しいっすから」
荻田の返しに、池本も江島も大きく頷いている。
あんたら、ほんと伝票抽出するだけだよね。
「皆、冷たいな」
そういう所長もこの八年間、一回も手伝ったことないですよ?
本当、この会社の男はどうにもならない。
「で、所長、私に何の用事だったんですか?」
あっという間に段ボールは、押し車に載せきった。
私ってば仕事早い。
「あー、あのな午後から光建設の社長が見えるから、会議室に珈琲持ってきてくれよ」
「光建設? 聞いたことないところですね」
「新規の取引先だ。まだ設立して間もないのに公共工事も民間工事もバンバン取ってくるやり手の社長だよ、年間リースの契約にやってくる」
「へぇ、凄いですね。でもお茶出しなら若くて可愛い新入社員にやらせたらいいじゃないですか」
【お局様】と呼ばれ、最近ひねくれ気味の私は、江島と喋り続ける若い事務員、大島さんを指差した。
所長はそんな彼女を見てため息をつき、首を横に振る。
「可愛いだけじゃダメな時もある。大島の淹れる珈琲は麦茶みたいに薄いし、あと、爪が長すぎてカップを良く倒すんだ」
「……今度、教えときます」
何だかんだと雑用の多い会社。
あと、何年……私は勤まるだろうか?
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