第9話

「え?」


ドスの効いた声を出すイケメン飼い主。


ペコじゃなくて私を睨みつけてる!



「……おい。今、お前の犬、雑種の分際で俺のジャンヌに乗っかったぞ」


「……は?」



今、雑種って言った?


豆柴のペコのこと雑種って……。



「ジャンヌは妊娠しやすい体なんだ、もしデキたら責任とれよ!」


「はぁぁ?? うちのペコ、メスですけど?!」



「その髭親父みたいなツラしてメスなのか、かわいそうな犬だな」




なに、こいつ。


ペコの鼻のまわりが黒いことバカにしてる?





「ランに来るときはちゃんと従順になるようにしつけてから来いよ。他の犬の迷惑だろうが。うちのジャンヌみたいにシーズンでデリケートなメス犬もいるんだ」



う。



確かに、今日、思いつきでやって来たことはちょっと後悔してる。



でも、やっぱり言い方がムカつく。




「シーズン中のメス犬ならそちらこそ、こういった場所はお控えになったらどうですか?!

うちのペコがメスだったから良かったけど、一年中交配が可能なオス犬だったら危なかったですよ」



こんなに大きなロットワイラーを襲うオス犬が果たしてここらにいるかは別として。


そんなに心配なら避妊の処置をしてやれって。



「自分ばかりが正しいと押し付けがましく言うのは良くないと思いますよ、間違ってることもあるので」




ふん。言ってやった。



私だって犬を飼って三年目。

飼い主として犬のことちょっとは分かっている。





「……俺の何が間違ってるって?」



ジャスミンだかジャンヌだか知らないけど、デカイ護衛犬を引き連れる金持ちっぽい男。


リードを握りしめながら、思い切り顔を引きつらせていた。




「うちのペコは雑種じゃありませんっ!

ちゃんとした豆柴ですっ!」





日本人なんだから、日本犬の顔くらい覚えろっつーの。




そのあとは、性悪男の方は振り向きもせずに自宅の方へと向かった。





はぁ、ちょっとスッキリ。

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