第87話

私の目の前まで来た彼は、しゃがみ込んで私を抱きしめる。



その手は少しだけ、鉄の匂いがする。




これをまさに、血の匂いといえば簡単なのかもしれないけど。



「真野。」



そして彼の声は、少し歪んでいる。



「真野。」



切なくて、苦しくて聞くのもつらい。



「真野。」



アア、ヨバナイデ。



「真野。」



ワタシノナマエヲヨバナイデ。









「愛してる」







彼の愛は、歪んでいる。



違うよ、あなたは私のことなんて愛していないんだ。



これっぽっちも愛してなんて、ない。



「愛してる。」



軽々しく、人を愛するものじゃない。



君は、私のことを愛してなんてないんだよ。

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