第103話

ガチガチに緊張することなんか、生まれて初めてかもしれない。

心を落ち着かせるほど数回深呼吸をしていると、錦が私の頭を撫でて優しく微笑んだ。



「ん、やっと僕のこと見てくれた。焦らんでええよ。モール歩いてる時から紺ちゃん顔こわばってんで。」



錦の言葉で初めて肩に力が入っていたことに気付いた。

張り積めていた力が抜けて、錦の肩に頭を預ける。






───『……僕、本当は女なんだ。』







「そっか……紺ちゃん、話してくれてありがとう。」



ゆっくりと頭を上げて錦を見ると、錦は驚くわけでも怒るわけでもなく柔らかく微笑んで目を細めた。



『驚かないね。やっぱり、掃除の時私に聞こうとしてたのってこのこと?』



「ふふっ……紺ちゃんが私って言うてるの新鮮やな。」



『なに、似合わないってことかよ。』



「ううん、ふふっ……今無性に頭撫でくり回しとうなるなぁと思って。」



『……分からん。』



家の中でも“僕”と意識付けていたのに、“私”と言ってしまった。

錦はクスクスと笑いながら私の頭を撫でて、何を思ったのか額にキスをした。



『っ……へ?』



「なんで男装なん?」



『え、スルー?』



「なにが?」



……ぶつかっちゃっただけなの?偶然なの?

チュッ、と可愛い音がしたのは聞き間違い?



『……八雲紺、僕はね。柳組の組長の孫娘なんだよ。つまり、次期組長。あ……これ内緒だぞ。』



「っ!?そ、それは想定外やっ!」



大雑把に何故男装することになったかとかを話すと、錦はなるほどと顎を撫でた。



「組長さんは先を見通してるんやな。さすがやわ。でも、八雲っていうのは?」



『それは父の姓。』



「そうなんや。そっか、柳組は一人娘やったな。昨日の大ちゃんと諭吉くんの反応から見て、両親はここにおらんの?」



『うん。母は海外。父は……うん、別のところに住んでる。』



父と母が結婚していないこと、父の仕事も詳しくは言わなかった。



錦との話も一段落した時、ドタドタと廊下を騒がしく走る音が聞こえてきて、それが誰のものかなんて見なくても分かる。



『まあ、僕はこれからも男として生活するから錦も絶対に他に言っちゃダメだよ!』



「友達の秘密は漏らさんよ。僕口堅いで。」



「「こーーーーーんっっっ!!!」」



「廊下を走らない。」



「「痛っっ!!」」



スパーンッ、と開かれた襖から双子が飛び出してきて私と錦に飛びつこうとした。

しかし、遅れてやってきた獅子さんにスリップで頭を叩かれて蹲った。

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