第102話
「さっき桃里とおったんやけど、ユウジくんに電話しても出ないって拗ねてたで。」
「え……あ、ほんとだ!壱、もう行こう。約束の時間!」
抵抗する壱をユウジが引っ張って、二人“は”去っていった。
何故、錦くんは残っているのかな?
私の腰に手を回すと、甘い石鹸の香りがふわっと近づく。
「紺ちゃん、なんでそんな格好してるん?」
『っ!!!』
小さく落ちた言葉に心臓がギュッと握り締められたような感じがした。
バレてしまった。
知らない奴に尾行されて仕方なく変装したと素直に言えば、錦は「そうなんや」と言うだろう。
……ほんとにいいの?
このまま錦を騙し続けるのか?
キュッと唇を噛み、父と母の言葉を思い出す。
『っ……錦、今時間ある?』
「うん。」
私の腰に回った錦の手に触れ、錦を見上げる。
思っていたより距離が近くて、心臓がビックリして跳ねた。
錦の目が驚きで見開き、一気に真っ赤になった。
『着いてきてほしい……あの、手は離して?』
「離さん。なんかあるんとちゃうん?今ならどこにでもいる彼氏彼女に見てるで。」
『……。』
暑さに逆上せたのか?と思ったが、モールは冷房ガンガンに効いている。
頬が赤くなった錦は、腰に手を回したままその手で私が触れた手を掴むと指を絡ませた。
『ちょ!』
「紺ちゃん、暴れんといて。な?」
『っ……』
耳元で色気全開の声で囁くな!
吐息が耳を掠め、くすぐったくて身を捩ると抱き締められた。
ぎゅうぎゅうのエレベーターの中で、暴れ狂う心臓をなんとか鎮めようとしたがこんなこと初めてなことだからどうすればいいのか分からない。
地下駐車場に着き、全員が降りていく。
流されるように私たちもエレベーターを降りて、キョロキョロと車を探す。
「わっ……紺さん!」
『あ、和志!』
声を辿ると、白い軽自動車に乗った私服姿の和志が私たちに向かって手を振っていた。
錦を見て、若と呼ぶのをやめてくれた。
「九条の……」
『早く乗って!』
「いたたっ!」
腰に回っていた手をつねって錦を助手席に押し込んで、私は後部座席の足元で小さく丸まった。
無言のまま車は柳の屋敷まで入り、私たちは客間に案内された。
「後程獅子さんが参ります。」
それだけ言い残して和志は部屋から出ていった。
うーむ……気まずい。
小学生以来のスカートに落ち着かなくて正座をしていた。
『に、錦……』
「事情があったんやろ。誰かに追われてたんか?」
『あ、うん。尾行されてたっぽい。それでこんな格好なんだけど……僕は、錦に言わなきゃいけないことがある……。』
「うん。」
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