第81話
涙を流しながら、銀聖と戦う麟太郎を見る壱。
眉が八の字に下がり、後悔の念に嗚咽を漏らしながら泣きことしか出来ずにいる。
『僕の勝手な推測だけど、狸じじ……組長は二人にこれからどう生きるか決めさせようとしてたのかもな。
壱のお父さんは組の未来を守って亡くなった。組を背負うこと、裏の世界に生きていくこと。』
それは重くて、自分の大切な人がいついなくなるかも分からない世界で、信頼していた人が次の日には裏切り者となっても可笑しくない世界。
『狸じじいは壱が麟太郎に手を出すなんて思っていなかった。父親が麟太郎を守ったことは事実で、父が守った人の命を奪うことはファザコンの壱にはできないと思っていたから。狸じじいは自分を狙ってくると予想してたみたいだけど、それは外れた。なんで狸じじいじゃなくて麟太郎を狙った?』
麟太郎たちに視線を移すと、大吉がたーちゃんに決めの一撃を決めた時だった。
「はぁー!!たーちゃん情けない!!仕方ないか、今回は一勝三敗一引き分けだな。俺が勝ったところで二勝三敗!どっちみち鴉の負けかー。」
「あ?一勝もしてねぇだろうがクズ!!てめぇも負けにしてやるっ!零勝四敗だ。」
「そっちの一敗は君のお兄さんの分。他のメンバーは全員紺にやられちまったし、もうお昼の時間。条約を忘れたの?お昼ご飯は不可侵の時間。購買の時間じゃぁぁぁっっっ!!!」
昼休みのチャイムがなり、倒れていたはずの男たちが一斉に校舎の中に雄叫びを上げて入っていった。
『え、なになにっ!?!?』
「紺、この学校は昼休みに購買が開くと戦争が始まるんだ。」
「昨日は紺ちゃん倒れてもうたし、一昨日は昼前に帰っちゃったから知らんよなー。」
百合学では、三大勢力の間で四つの不可侵条約が結ばれているらしい。
それぞれが一つずつ出したものらしい。
髑髏が出した不可侵条約は“バイクには手を出さない”。
さすがバイク愛好家たちの集まりだけある。
喧嘩をしていても、バイクには絶対に触れるなということらしい。
揚羽蝶が提示したのは“同意のない不純異性交遊を禁ずる”。
これがあるから、どんな節操なしの野郎であろうと揚羽蝶メンバーには手を出していないらしい。
鴉が出したのは“腹が減っては戦はできぬ”。
昼休みは喧嘩はしない。休戦時間とする。
そして最後に四つ目が、それぞれの聖域には許可なく立ち入ることを禁ずる。
『こんな荒くれ者の集団たちが、律儀にそれを守り続けてるの?』
「どんなに荒くれ者だろうと、先代には憧れだったりがあるんだってさ。なんだかんだ無法の地ってわけじゃねーの、ここ。まあ、この四つの条約以外はまじで自由だからなー。だけど普通に夏休み前には自然学校とか秋には体育祭と文化祭とかがあるんだぜ?」
『楽しい行事には参加するのな。』
「テストだけは全員受けるぜ!それで成績決まるからな。」
『ゆっる。』
諭吉と錦に今さらながら新しい学校の情報を教えてもらっていて、話が脱線していることを忘れていた。
銀聖のせいだ。
アイツ、いの一番に購買に向かったぞ。
「……壱。」
「っ……麟太郎、俺……俺は……すまなかったっ!!……組長の一番大切なものを、奪ってやろうと……思ってたっ!なんで親父が死んでアイツが生きてるんだってずっと思ってた。アイツに、大事なものがなくなった後の絶望、孤独……味わわせてやりたかった!!でも、でもっ……俺には、麟太郎を殺せない!!お前に切りかかった時、親父の顔が浮かんでっ……うぅっ……!」
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