第78話

今日も今日とて、百合学は百合学である。



校庭では乱闘騒ぎ。

三回目の登校で私は何にも思わなかった。

それは一年生三人も同じだった。



しかし、二年生の二人は目の色を変えた。



「っくそ……伊嶋の野郎!」



車から飛び出した二人の後をユウジの父に礼を言って桃里と諭吉が追い掛けていく。



『錦は行かないの?』



「紺ちゃんは何しでかすか分からへんから、一人は監視しなきゃあかんやろ?」



『……人を危険物に扱いやがって!くそぉ!』



「降りるなら早く降りてくれ。」



『桜井さんに聞きたいんですけど、狸じじ……コホンッ!組長さんは壱が“騙された”ことに気づいていたんじゃないですか?気付いてて壱を利用したんじゃないですか?』



「壱沙くんの父、貴一さんは組の未来を守って亡くなったお方だ。その息子を本当の息子のように育ててきた。彼等のことは頭が一番よく分かっている。」



『壱が本当に麟太郎を殺ろうとしてたら、狸じじいはどうするつもりだったんでしょうね。あー、嫌だ嫌だ。壱が絶対に麟太郎を殺めない自信があって放っておいたんだ。うまくいけば、壱が育ててくれた恩とか何も考えずに組を抜けて自由に生きていってほしいとか思ってたとか?』



「さぁ?俺には頭のお考えは存じ上げませんので。」



『腹立つなぁ。怨み抱えたまま、生きてくことの方がつらいっつーの。桜井さん、運転ありがとうございましたー!』



「ありがとうございました。」



「また会いましょう、“八雲くん”。」



車から出て五歩、車を振り返ると不敵な笑みを浮かべたユウジ父が車を発進させて去っていったところだった。



『こっわ』



「即刻調べたんやな。名前くらい直ぐ分かるやろ。百合学、僕と諭吉くんと仲が良いってことさえ分かっていればな。」



『錦と諭吉と仲良いとバレるの!?』



「僕は関西の九条の次男坊やし、諭吉くんは柳の組長の腹心の息子やで。あっちも同じ世界の人間なんやから情報には聡いで。」



『なるほどな。』



まあ、私の詳しい情報は私だけじゃなく祖父や母も厳重なガードをしているから心配ないだろう。

深淵にきた奴は私の仕掛けたトラップで即分かるようにしてあるから大丈夫。



『錦くん、突撃じゃー!!』



「うげー!!」



乱闘騒ぎの中に突撃した私に、錦は嫌そうな顔をしていた。

嫌というよりも、私がバックにいれていたあるものを見て引いているように見える。

私も三回目の荷物検査、金属探知機に学習したんだ。



体操着が入っていない体操着入れに隠してみた。

荷物検査は軽く見て終わるから楽勝楽勝。

武器など要らないが、最早彼らをいかにして欺くかに脳を回転させている。



目につく全員を、鞄から取り出した安全ハンマーで吹っ飛ばしていく。

ポケッ、と空気の抜けた音をさせながら宙を舞う男たちの光景は奇妙だった。



殺られていく彼等は、目の前の敵よりも私を見ると一目散に逃げていくようになった。



「す、すごい……乱闘が鬼ごっこになってもうた。」



『アッハハハハハッッ!!!かかってこいやぁぁ!!!』



「「「ぎゃあぁぁぁ!!!」」」



「安全ハンマーが安全じゃない!」



「子供のおもちゃじゃない!」



「ヘルメットをくれぇぇぇ!!」



殴り合いの音が絶叫に変わり、逃げ惑う男たちは校庭をぐるぐると回る。

校庭にいる全員を沈めると、校舎の中でも乱闘は起きているみたいで窓ガラスが割れた。



『おい!起きろ!!くそっ!てめぇらのせいで僕のポフポフハンマーが壊れたじゃねぇか!!』



「紺ちゃん!そないポフポフしても起きへん!」



意識が若干残っている一人を柔らかい安全ハンマーで肩を叩いてやるが、呻き声を上げるだけで起きる気配がしない。

そんな私から錦は男を引ったくると頬を往復ビンタした。



『錦は鬼畜だ。綺麗な顔して鬼畜だ。』



「僕は鬼畜ちゃうで。それ言うなら紺ちゃんや。」



「う”っ……ヒィッ!!」



『なぁ、何が起こってる?』



「っ!!か、鴉が仕掛けてきたんだ……壱さんが屋上に……」



それだけ言うと、意識を失ってしまった。

壱が屋上にいるということは、大吉も屋上にいるのだろう。



私は麟太郎のところの会議室で桃里を待っている間に、大吉にもしも壱を発見したら学校で集合しようとメッセージをいれていた。

その後、大吉から壱を発見したことも連絡されていた。

だから二人は一緒にいるはずなんだ。

大吉が無事なのかが気になる。



『錦、行こう!』



「屋上やな!最短ルートで行くで!」

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