第74話

エレベーターが目的の階に着き、私たちは会議室のような部屋に案内された。

一面ガラス張りの部屋で、このガラスも特別なものなのだろう。



「麟太郎、出てこれないの?」



「部屋に籠ったきり出てこない。桃里が呼び掛けてるんだけどね。」



『とりま用があるのはユウジと桃里だから、桃里呼んでよ。』



「分かった。ちょっと待ってて。」



そう言ったユウジはスマホを耳に当てて、桃里に場所だけ言うと通話を切った。

桃里を待っている間に、スマホで大吉にメッセージを入れておく。



そして三分せずに桃里が来て、私たちを見て困惑した顔でユウジを見る。

桃里は私たちと向かい合うようにソファーに座っているユウジの隣に座った。



「なんでいるの?」



「二人の力になりたくて来た!髑髏は本当に解散する気?」



「なんとも言えない。最終決定は麟太郎が決めることだ。でも、もうバラバラになってしまった。」



今の麟太郎ではこの状態を終結させることはできないだろう。



『壱が言ってた“人殺しの血”ってどういうこと?』



「それは……」



桃里は分からないと首を振った。

ユウジは知っているのだろう。

親がトップの側近で、大吉と諭吉のように幼い頃から組で育てられただろうから。



「それは、言えない。これは組の問題だ。」



『じゃあそれは後にするとして、アンタら二人はどうなってほしい?』



「どうって……」



俯いた二人の表情は分からないが、かろうじて桃里が唇を噛んで諦めたように肩を落としているのは分かる。



『“どうしたい”じゃなくて“どうなってほしい”か。願望願望。髑髏のなくなって、あの兄弟は仲違い。組長が怒ってるなら壱は消されるかもねー。それが今のエンディング。それでいい?』



「そんなのっ!!そんなの嫌に決まってる!!髑髏は俺にとって恩人がくれた居場所で、麟くんも壱も昔は仲良くて皆笑ってた。去年から二人の様子が可笑しくなって……俺はっ、何もしてあげられなかった。俺はただ、皆で馬鹿して笑ってた時に戻りたいだけなのに!」



「桃里……。」



「ユウジはどう思っとるん?組のこととか抜きにして、麟太郎の親友やろ。」



「俺は、麟太郎も壱も救えなかった。そんなの、言えば叶うの?助けてって言えば助けてくれるの?綺麗事だ!現実は……無理だったんだ。」



あ、短気はダメ。短気はダメダメ。

短気は損気。



「なんでユウジはそんな諦めきってるんや?」



「っ……、これは話し合いとかで解決できる問題じゃない。もう俺たちのことは放っておいてくれ……。」



胸がムカムカして吐き気がする。

イライラゲージがにょきにょきと上がっている感覚に目を閉じた。



『諦めれば楽だもんな。お前が楽になりたいだけじゃないの?』



「は?」



『僕は神様じゃない。ただのギャンブラーだから結果がどうなるか分からないけど、桃里は僕に賭けてみる?』



「え?」



困惑しながらも、何かにすがりたくて貪欲に目を見開く桃里に挑発するように笑いかける。

諭吉と錦も困惑している。



『どうせ崩れるだけなら、こっちから仕掛けに行こうよ。』



「なんで?お前来たばっかじゃん。なんでそんな、俺たちの為に?」



『は?誰がお前らの為っつった?僕はある人に“お願い”されたからここに来ただけ。』



そう言って立ち上がると、部屋を出てエレベーターに向かった。

後ろから4人が追いかけてきて、ユウジは私に何をする気だと睨んでくる。



『組長さんいないの?』



「……この時間はまだ事務所で仕事してる、はず。まさか組長に会う気!?忙しい人なんだ!会ってなんかくれない!」



『事務所何階?んー、一個上かな?』



「ちょっと!」



私を止めようのするユウジを押し退けずんずんと進み、四階に上がると正解だった。

自動扉が開き中に入ると、書類仕事をしている人たちが一斉にこの場に異質な私たちを見て睨む。



「おい!誰だ!!」



「ユウジ、部外者を入れたのはお前か!?」



一番奥にまた扉があって、その扉の前に立って首を鳴らしてストレッチした。

木製の扉をノックすると、男の声が聞こえてきて扉を開けた。



『お邪魔しまーす』



中には男が三人いて、一人だけ圧倒的なオーラを放つ祖父と同じくらいの見た目詐欺おじさんがいた。

三人のうち一人はユウジに雰囲気が似た男の人がいるから、その人がユウジの父だろう。



「ユウジ、誰だそいつらは。」



「君らは?」



逆らわせないという重圧感を孕んだ声の男の人の前に立ち、へらりと笑ったつもり。



『麟太郎たちと同じ学校の知り合いです。今日は麟太郎くんと壱くんのお父さんにお話があってきました。』



「ここが何処か分かって言ってるのか?小僧。」



鋭い三白眼が私を捕らえ、持っていたペンが机の上に放り出された。



『まあ、厳ついお兄さんたちがたくさんいるので。』



「帰りなさい。君たちに割く時間はない。」



『まあ、息子たちに割く時間もないくらいですもんね。』



私が言った言葉に麟太郎の父は、不愉快だと眉間に深い深いシワを作って私に怪訝な目を向けた。

その男が何か言うよりも先に、残りの一人の20代後半くらいの男が吠える。



「おいっ!さっきから聞いてりゃ舐めた態度取りやがって!摘まみ出せ!!」



私の後ろにいる大吉と錦と桃里に手を前の部屋に男たちが手を伸ばす。

大吉と錦は伸びてきた手を叩き落としたりして抵抗している。



『一個だけ!一個だけ教えてほしいことがあるんですよ。それ聞いたら大人しく出ていきます。』



麟太郎の父からずっと視線を外すことなく見つめていると、男は付けていた眼鏡を外して重い溜め息を吐いた。



「一つだけだ。」



『ありがとうございます。前置きはなしと言うことで、貴方は壱沙の大切な誰かを殺しましたか?』



その瞬間、重い空気が張り詰めて殺気を孕む。

皮膚をヒリヒリと刺激する感覚に、嗤いが込み上げてきそうになって顔を引き締めた。



「誰から聞いた。」



『僕の質問に答えてくだされば教えますよ。あ、ユウジは聞いても何も教えてくれなかったです。』



男たちが私の後ろにいるユウジを睨んでいたからそれだけは否定した。

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