第40話
私の手の中に収まっていた鉄パイプは、少し力を入れただけで90度に折れ曲がってしまった。
あーあ、力加減間違えちゃった。
父譲りの超強靭な怪力の私は、手加減のために誰彼構わず投げ飛ばし続けていただけだ。
まるで私をバケモノでも見るかのように怯え、腰を抜かした男は私から逃げる。
誰一人かかって来なくなってしまった。
一歩も動かなかった私が、やっと一歩鉄パイプを振りかざした男に近寄ると全員が一目散に体育館の外に逃げた。
『終わり?』
「待てや!!」
声がした方を見ると、舞台の上から私より小さい男とは思えない程可愛い顔をした少年が私を睨みながら下に降りる。
声は声変わりした男の子のそれで、私を睨んでいるのだろうが可憐な美少年の睨みは怖くなかった。
「ぶっ潰してやる!」
可愛い見た目からは想像できない言葉。
「桃里!幹部は手を出さないんじゃないのか!?」
「黙れや諭吉!!こいつが自分で誰でもかかってこいって最初に言ってただろ!?俺は特攻隊の隊長だ!仲間の敵討ちだ!こいつが終わったらお前らも麟くんに跪かせてやる!」
「アイツほんまに頭キレると人格変わってまうよなぁ。」
諭吉に吠えた男が、一年生で生き残った中学から我蛇髑髏にいるという桃里って奴か。
場違いなのんびりとした甘さを孕んだ声を出す錦に桃里は舌打ちをした。
『クシュックシュッッ!クシュンッ!あ”ーッ!』
くしゃみをした私に意識を向けた桃里は、私が鼻を啜っている隙に目の前に飛び出して蹴りが飛んできた。
それを右に半歩ずれて受け流すと、殴りかかってくる。
今までの誰よりも小柄なのに、一発一発が急所を狙ったもので重みもスピードもある。
だが、殴りかかってきた桃里の拳を手のひらに受け止めて少し力を入れて握り────。
「ッゥグッ!!」
グルグルグゥゥゥ……と私の腹が場違いな音を上げる。
汗もかいて通気性の悪いシャツが気持ち悪い。
打撲くらいで大人しくなってもらうかな。
そう思ってここに来て初めて人を殴った。
桃里の掴んでいた手の前腕骨を殴ろうとして、桃里が暴れたせいで狙いが外れて上腕骨と前腕骨の間の関節が嫌な音を立てた。
その腕は本来曲がるべきではない方に曲がり、腕を抑えた桃里が声にならない絶叫を上げて床に転がった。
「ア”っ!!ガァァァッッッ!!」
その光景に、その場にいた男も女も戦慄した。
『あ……ごめん。大丈夫!?力入れすぎた。』
恐怖で震える桃里の前にしゃがみ、青く変色して腫れ上がった桃里の腕に折れた鉄パイプを添え木にしてネクタイで固定した。
『おい!大丈夫か?大吉!救急車呼んで!諭吉は冷やすもの持ってきて!』
「「おう!」」
「桃里!?大丈夫か?しっかりしぃやー!」
「っ……ぁっ……ぅ」
錦が駆け寄ってくると、桃里の頬をぺちぺちと叩く。
大吉はスマホで救急車を呼び、諭吉は走って校舎に向かった。
「紺の勝ちだね。俺のオモチャにしたかったのにざーんねん。」
「望みはなんだ。」
『は?』
舞台で平然とそんなことをいう金髪に、頭の中でブチッと音がした。
銀髪にも腹が立ったが、まずはアイツだ。
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