第32話
─────不良になれ。
こんな平々凡々で何の取り柄もなく大人しい普通の女の子に向かって、あの爺は180度変われと宣うた。
そして、男になれときた。
伸ばしていた髪を切り落としたのは昨日のこと。
父と母に見せたらきっと驚くだろう。
少し残念がるかもしれない。
地面に擦り捨てられた積み重なった煙草の吸殻。
踏み潰された悪臭漂う酒缶が転がっていて、校舎の外壁にはスプレーの落書き。
「喧嘩上等!!」とかいつの時代だ。
『きったねぇ校舎。くせぇな。』
スラム街よりもはるかに汚い。
校門のところでたむろするくたびれて着崩してダサい制服に、クロックスやらビーサンや踵を踏み潰したスニーカーを履いたカラフルヘアーの男たちが和式トイレ座りをしてたむろしている。
ソフトリーゼントやドレッド、何色で頼んだの?っていうような奇想天外な色のロン毛。
あからさまに“不良”を象徴しているような男たち。
『笑ってはいけない24秒。』
彼らは将来痔で苦労するであろう。
「紺ちゃん、アウトー」
「紺、暑さにやられた?」
ノってくれる大吉とマジレスの諭吉。
役割分担完璧だな双子くん。
それにしても、あの人たち暑くないのか?
日陰とはいえ、冷房が効いた校舎があるではないか。
大吉と諭吉は気にも止めていないから、きっと見慣れた光景なんだろう。
「チッ……綾瀬だ。」
「あ!?誰だあのイケメン。」
「あん?いいから行こうぜ……。」
彼等は大吉と諭吉を見ると、焦ったように煙草を地面に擦り付けて校舎へと走っていった。
明らかに同い年ではないであろう男たちは、私を挟んで歩く双子をチラチラ見ていた。
『知り合い?』
「んー?名前は分かんないけど、シメたことある。」
「さっきのがいたってことは、アイツらはまだ来てねぇな。良かった良かった。朝から疲れるのはごめんだ。」
うちわでパタパタと自分を扇ぎながら、途中のコンビニで買ったアイスキャンディーを食べる大吉を見る。
『アイツら?』
アイスキャンディーを食べ終えた諭吉が棒を噛みながら学校の説明をしてくれた。
この学校は大きく三つのグループで成り立っている。
その一つ目がここらで有名な暴走族の
総長、幹部の顔面偏差値高めのバイク愛好集団で喧嘩が強くて、抗争もしょっちゅう。
そしてもう一つが我蛇髑髏の天敵で荒くれ集団、
こっちはバイクとかよりも女と喧嘩が大好き。
最後の一つが一割の女子が必ず入る
腕っぷしに自信のある女や極道の令嬢がそれに入りたくてここに入学してくるらしい。
そのどれには属してない生徒がごく少数いるらしい。
校門を潜ると、校庭で殴り合いをしている男たち。
それを顔色一つ変えずすり抜けていく二人に続く。
『二人は?』
「俺たちはどこにも属してませーん。」
「集まりとか面倒。でも、前者の二つからはしつっこく勧誘されるんだよ。毎日だよ毎日!」
『二人喧嘩強い……のか?』
二人の殴り合いを思い出す。
的確に相手の急所を狙い、武術の心得もある動き。
「この学校ではトップファイブを争うくらいではあるよ!?」
『ちなみにそのトップファイブのエントリーリストは誰かい?』
「我蛇髑髏のトップと鴉のトップ、俺と諭吉と……何処にも属してない俺たちの友達の錦って奴。」
「錦は幼馴染みなんだ!あとで紹介するよ!」
校舎に入ると、楽しそうに笑っている女たちや言い争いをしている男女。
そんな彼女彼等は、大吉と諭吉を見てそれぞれの反応を示す。
顔を赤らめて二人を見る女や、友人なのか挨拶を投げ掛ける男女。
それに二人も愛想よく答えている。
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