第11話

『父、母……ありがとう。』



「じゃあ僕はもう行くよ。紺、家で待ってるよ。」



祖父の背中にあっかんべーすると、存在感を消していた二人の男の内の一人がフッと笑った。

チャラい方だ。



祖父のせいで母のフライトの時間が迫り、三人で父の家を出た。

私も最低限の荷物を持って、急用じゃないものは父の家に置いてきた。



「紺、何かあったらパパとママに言うのよ!」



「そうだ!お義父さんは叩けば埃しか出てこないからな!」



父よ、仮にも母の父だぞ。

心配している二人に苦笑いで頷き、最後に三人で写真を撮った。



『母、気を付けてな。浮気は絶対に許さないからな。髪の毛全部引き抜いて目玉抉られたくないだろ。』



「言われなくてもしないわ!!クロさん以上に最高の男なんていないんだから!昨日の夜も」



『うげぇぇええ!!きもいぃぃぃ!!』



「クロさんも、またすぐ会いに来るからね……。」



「ああ、アオ……愛してるよ。」



イチャイチャし始めた二人を見る私の顔に、私たちの周りの旅行客が距離を取って引いている。

決して私の顔にじゃなくて、年甲斐もなくイチャつくバカップルにだろう。



「『いってらっしゃーい。』」



母を見送り、母が乗った飛行機を父と静かに見つめていた。



『父、今日は遅番だっけ?』



「ああ、送っていくよ。」



『大丈夫。住所は祖父から聞いた。父は近づいちゃダメ。母もどうせ二ヶ月に一回は父に会いに行くだろ?私も同じ日に会いに行くからさ。』



「紺は近いんだからもっと会いに来てよ……。」



『気が向いたらな。』



本当なら、父と暮らしたかったな。

しかし、もしも私が柳の人間だと意図せずバレてしまった場合一緒に暮らす父に迷惑をかけるのと、祖父は私に組の人間と親睦を深めてほしいだとか泣き真似して言ってきたのだ。

私は前者の理由が100%で祖父の所へ行く。



「紺は黒斗くんが心配なんだろ?だったら八雲じゃなくて柳を名乗った方が関係を隠せるよ。」



あの時、祖父は条件の一つを不思議そうに指でなぞりながら私を見やる。

私の精一杯の強がり。

八雲だろうが、柳だろうが、私を詳しく調べればいくら誤魔化してもごっそりバレる。

警察官八雲黒斗の娘で、柳勲の孫。

脅しで屈したんじゃない。

“私が選んだんだ”と。



『お守りだよ。』



「お守り?」



『じじいには分からねぇだろうな。』



「じいじって呼んで!一万歩譲っておじいちゃんがいい!」



『クソ爺。』



いくら顔が良くても腹は立つし、正直きもくて引いた。

あの時のことを思い出して遠い目をしていると、父が私の目の前で手をヒラヒラと振った。



「紺?」



『父、行ってきます。』



「いってらっしゃい、お転婆娘。」



父に手加減なしで背中を叩かれ歩き出した。

そんな私を、父が寂しそうな顔で見送っていたことを私は知らない。





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