第37話
その瞬間、スローモーションに見えた。
大吉の頭に棒が当たり、嫌な音を立てる。
ゆっくりと大吉の体が傾き、倒れた大吉を男たちが揉みくちゃにしていく。
大吉に気を取られていたから、目の前からのストレートがもろに頬に入る。
───プツンッ……と喧騒の中でも静かに音がした。
「殺れ殺れーっ!!」
「やめろっ!!」
「大吉っ!!」
諭吉と錦の声だけじゃない。
麟太郎や銀聖たちの制止の声も聞こえる。
拡声器からのおにぎりさんの声も聞こえた。
頬の痛み、口の中の鉄の味もどうでもいい。
私を殴った男の顔を掴み、膝で蹴りあげた。
腕を掴み、回転しながら男たちにぶん投げる。
一瞬怯んでから向かってくる男たちを殴り飛ばし、大吉に群がる奴等の頭に飛び蹴りをした。
『おい。』
男たちが動きを止め、私から距離を取る。
大吉の頭からは血が出ていて、意識もなかった。
『錦、救急車。』
「っ……うん!」
『おい、てめぇだよ。』
思っていたよりも低く唸るような声が出た。
大吉の頭を棒で殴った男に近寄ると、男はまたでかい棒を振り上げた。
その男の腕を受け止め、私より二回りでかい巨体を地面に背負い投げた。
棒は転がり、男は受け身を取って背中を地面に打ち付けた。
「ひゅっ……」
男の喉から漏れる音が広いグラウンドに鮮明に聞こえる。
そのくらい混乱は収まっていた。
『僕が一番嫌いなこと……なんだと思う?』
「ヒッ!!」
『正解は─────』
「あ”ぁぁぁぁっ!!!ガアッァァァ!!!っっっ!!!」
『仲間殺られること。お前らと一緒、だろ?』
ほら、だから武器がないと戦わないって言ったじゃん。
男の腕を握りしめると、骨が砕ける音と肉が弾ける音が響いて男が絶叫して泣きながら気絶した。
『僕が武器を使うのは……殺さない為だって分かったか。』
腕だけで勘弁してあげるよ。
やり過ぎたら大吉は気に病みそうだからね。
大吉に感謝しろよ?
男の手を地面に投げ捨て、近くに落ちていた棒を持つ。
『僕を敵に回したこと、後悔させてやる。』
それからのことはよく覚えていない。
おにぎりさんから聞いた話、「阿鼻雑言。これが地獄か、と思った」とのことだった。
私たちを襲ってきた男たちを全員棒で薙ぎ倒したらしい。
そして、棒を自分の陣地まで運んだところで救急車が到着したらしい。
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