第21話
『んっ……』
目を覚ますと、白い天井。
施設じゃない。
顔半分がいたい。夢じゃない。
バッ、と体を起こすとベッドに自分とは別の重みがあることに気がつく。
『チビ……』
「起きたか、光。」
『っ……し、し兄さん?なんで……』
「久しぶりだな。」
窓際の椅子に俺を置いていったあの人───獅子兄さんが座っていた。
最後にあった時よりも大人っぽくなって、体も大きくなっていた。
『どうして警察と?獅子兄さん、まだ学生だよね?』
「俺は今、柳って極道の組にいる。」
風で窓の外の木が揺れて、サワサワと音がする。
施設に入る前のこと、施設を出てからのこと、俺は施設で過ごした獅子兄さんのことしか知らなかった。
そのことに今更気づいた。
話を聞き終えて、仕事があるからと兄さんが帰っていくまで俺は何も言えなかった。
「よっ!ほら、ジュースだ。」
『っ……ううっ……』
黒斗さんは俺の手に微糖の缶コーヒーを置くと、俺の頭に堅くて大きな手を置いた。
「ははっ、今度はお前が泣くのか。」
「んっ……ひかるおにーちゃん?」
俺たちの声で寝ていたチビが起きた。
殴られた方は包帯やガーゼが巻かれているが、腫れているのが分かる。
ガーゼが湿っていく感覚がする。
『と、り……』
勝手に置いていかれたと、自分のことしか考えていなかった自分が惨めでカッコ悪くて最低だ。
チビは立ち上がると、腫れていない方の俺の頬に触れて目線を合わせてきた。
「痛いの痛いのとんでけー」
『黒斗さん、こいつは俺と間違えられたんですよね?』
「……ああ。」
『……ごめん。ごめんな。』
「ん?」
「お前のせいじゃない。自分のケツを自分で拭けねぇ大人のせいだ。子供を巻き込んだ大人のせいだ。このチビはお前が助けた。誇ることだ。」
『っ……おれ、俺っ……』
「チビも、お前も、あのガキも……不器用なだけだ。大事なもんをちゃんと分かってる。」
『んっ……大事なもんって、なに?』
「人を思いやること。守りたいとか、助けたいとか……当たり前みたいにあって、全員が見えてるもんじゃない。誰かの為って、言うのは簡単でも生半可で動けるもんじゃない。」
『俺は、こいつのこと助けられてない。』
「光お兄ちゃん?」
俺じゃ歯が立たなかった。挫けた。
もしも、獅子兄さんや黒斗さんが来なかったら……?
「光、大事なもん守れる男になれ。大事なのは、これからのお前だ。」
俺たちを拐おうとしていた奴等は捕まる日だったのは決まっていたことだったと聞いた。
組織の本部を捕まえたが、事情聴取をしていた黒斗さんは、男たちが俺を捕まえようとしていることを吐かせた。
最後に黒斗さんとあったあの日、公園に怪しい男が俺を尾行していたことを黒斗さんは見抜いていた。
だから俺に一人で出歩くなと言ったんだ。
後から聞いた話だが、俺の情報は獅子兄さんが守ってくれていたらしい。
柳の人たちが俺の護衛をしていたことも後から知った。
俺かチビが“光”だと知って調査していた男たちは何故かチビの方を“光”だと思った。
それでチビが誘拐されそうになった。
「光お兄ちゃん、痛い?」
『っ……もう大丈夫。ありがとう、桃里。』
俺の手を握って笑う桃里は、毎日病室に来ては鶴を折っていた。
そして退院した日、俺は大きな門の前にいた。
「おいガキ、ここはガキが来るところじゃねーぞ。」
『し、獅子って人に会いに来ました!』
この日、俺に家族ができた。
頭に頭を下げて頼み込むと、頭はあっさりと了承した。
道場に通って武術を学び、不登校だった学校にも行って寝る間も惜しんで勉強した。
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