陰影

第66話

淡い紫の藤が幾重にも暖簾を作り、それが道を作っていた“あの場所”には、いつも白い着物を着た“あの人”が立っていた。

細長くしなやかな色白の指先で藤の花を愛で、慈しみ、弄ぶ。

彼はいつも花の香り“だけしか”しなかった。



名前を呼び掛けると、彼は小さく微笑みを浮かべて名前を呼び返してくれた。



「会いに来てくれたの?」



約束なんてなかった。

ただ、会いに行くと彼はいつも力強く抱き締めてくれた。



甘く柔らかい彼の声音が大好きだった。

優しく撫でてくれる少し冷たい手が心地好かった。

ほしい、と思った。



「ごめんね、───よ。」



彼が最後に刺した棘は重く、深く肉を抉って蔓となり大輪を咲かせることはもう二度とない。

それでも今も尚、内臓を食い破り蔓は太く根を張って毒を吐き続けるのだ。






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