第62話
───「忘れたいのか?」
消えない。苦しくて痛い。
妖しく笑う口許も、細くて骨ばった硬い手の感触も。
もう、二度と感じられないあの人の熱。
───「笑ってろ。お前は馬鹿みたいにただ笑ってそこにいればいい。後は守ってやるから。」
不意に、煙草を握り締めていた手に触れられ顔を上げると帝が不思議そうな顔をして私を見下ろしていた。
『……みかど?』
「泣くな。」
『泣いてないよ。あ、これ……ごめん。』
「煙草、嫌いか。」
『そういえわけじゃないんだけど、好きか嫌いかって言ったら嫌いだよ。臭いし。』
帝は私の手から煙草を取ると、ゴミ箱に放り込んで私の腕を掴んで歩き始めた。
力加減の分かっていない不器用な左手は、痛いくらいに優しくて火傷しそうな程熱い。
前を歩く広くて高い背中は、昔は私の後ろを着いて歩いていた小さな背中の面影はなかった。
『おっきくなったね。何㎝?』
「さあ」
『杏璃もおっきくなってて……。でもね、二人のこと一目で分かったんだもん。不思議だよね。』
少しの寂しさと、胸が踊る感動がごっちゃになっている形容しがたい感情に少しだけ気持ちが楽になった。
飛びたいけど、飛べそうで飛べない。走り出しそうで走れない。
遠くから聞こえていた低く唸るようなバイクのエンジン音が、少し懐かしく感じてしまう。
しかし、そのエンジン音は近づいてきて帝が足を止めるのとほぼ同時にその音を止めた。
「よお、お前が【神王】の櫻小路帝だな。」
「……誰だ。」
あれ?この声、聞き覚えあるな。
誰かに似てるのかな。
どうしても、一度聞いた声や顔は情報としてインプットされているから顔を見れば分かると思うけど、生憎帝の背中で見えない。
帝は私を隠すように庇ってくれている。
「俺は【闇王】の
「【闇王】……ああ、お前が」
やみおー?安曇理生と言う名前にも聞き覚えはない。
「あ?女連れか?」
「関係ねぇ。」
「ほー、あの女を何とも思ってない冷徹な総長様が庇う女か。」
どっかで聞いたんだよなー。
気になってムズムズする。
折角帝が気を使って庇ってくれているのに、好奇心を抑えることに私は必死になっていた。
私からは見えないが、安曇はバイクから離れて帝に近づいて二人は睨み合っているようだ。
「目的は。」
「今日は取り敢えず挨拶だ。ただ、てめぇの仲間に後輩がやられてんだ。」
「面倒くせぇ。」
わざわざ宣戦布告的なものしに来るんだ。
律儀だなー。
でもたしかに面倒くさいよな。
「なんだと?」
「俺たちは喧嘩は買うが売ったことはない。」
「澄ましてられるのも今のうちだ。」
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