第45話

「いってえええ!!これ絶対たんこぶできちゃうやつだよ!?うわーっ!紫苑ちゃん慰めてー!」



『え、ごめん無理だ。』



「真白おおお!」



「大ちゃんうるさい。」



真白や帝にまで拒否られて、隣に座っていたBくんに宥められていた。



「紫苑、海いこ?帝も」



そんな状況を一瞥することもなく、杏璃は甘い微笑みを浮かべて私に手を伸ばす。

その手に手を伸ばすと、日向に連れ出された。

くらくらするほどの眩しい太陽の光に目を細めると、頭に軽い衝撃が当たって視界が少し暗くなる。

頭に触れると、キャップが被せられていて日の光を軽くしてくれていた。



『帝、いいの?』



「失くすなよ。」



ああ、今私幸せだ。

幸せすぎて、バチが当たるんじゃないかな。



『ありがとう!』


顔が緩んでいるのが自分でもよく分かる。

帝は不機嫌な顔のまま欠伸をして、先に海に向かってしまった。

照れているのかな?



「……ずるい。」



『杏璃も被りたかった?』



自分で持ってくれば、帝に借りることもなく杏璃に貸せたのにそこまで考えて支度をしていなかったよ。



「紫苑のおバカ」



『えー?なんでよー』



唇を尖らせて上目遣いで拗ねる杏璃も、不器用で優しい帝も私にとっては可愛い可愛い大好きな弟だ。

杏璃の頭を撫でて、今度は私が杏璃の手を引いて波打ち際まで引っ張った。



『広いなー海は』



「海好きなの?」



『うーん……あんま来たことも見ることもないからなー。よく分かんないけど、こうして見てると自分はちっちゃいなーって気付くよね。』



一度だけ連れ出されて生まれて初めて海を見た時の感動を思い出すと、感傷に浸りたくもないのに焦燥的な何かが込み上げてくる。



「なにそれ、ポエム?実はポエマー的な?」



『はずいわ!』



やめろと杏璃の口を手で押さえ付けると、背後に人の気配を感じて意識をそちらに集中させる。

攻撃されてもガードできように臨戦態勢を取ろうと体が動いた瞬間、脇に思い切り手が差し込まれ、私の両足は杏璃によって抱えられて─────



「せーの!」



浮遊感ののちに、大きな水飛沫と背中と腰を軽く打ち付けた衝撃に一瞬何が起こったのか混乱した。

水面の目映い光の輝きと、揺れる水泡、くぐもった呼吸の音だけの静かな世界にゆっくり手を伸ばし───



『っ!!……はあ、はあ……!』



後ろを振り返ると、悪戯顔で笑う二人の弟。

そしてその後ろにはその友人たちが私を見てゲラゲラと笑っている。



まさか、海に投げつけられるとは……崖から突き落とされるよりははるかに可愛いものだけども!

心臓がちょっと飛んだんですけど!

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